霞家の嫁

戦いが終わった後のゴタゴタでなし崩し的に無限齋以下総勢7名で暮らすことになったおぼろ研究所。
そこで問題になるのが食事。
やはり公平に当番制にするのがいいということで年長の二人を除く5人でシフトを組んだ。
だが、その際「意外性があっておもろいかもしれへん」というおぼろの独断で、総当たりで組み分けが組まれたため、なかには絶対胃薬が必要と思われる組合わせや料理が無事に出来上がるのかさえ心配な日ができてしまった。
そして今日、ついに最も心配な一組が当番に当たる。幸か不幸か無限齋とおぼろは留守だ。七海もライブの打ち合わせとかと遅くなるらしい。

そんなわけで当番をサポートする羽目になったのはやはりこの二人だった。
ガシャーン!
何かが割れる音がメインルームにまで聞こえた。
「ああ、やっぱり・・・」
吼太が頭を抱える。向かいに座っていた一甲も額に手を当てた。
当番の二人が厨房に消えてからまだ5分もたっていないというのに。
「どうする?見に行くか?」
ため息とともに吐きだされた吼太の問い掛けに、やはりため息で答えて一甲は立ち上がった。
メインルームの扉を開ければ廊下に響き渡る口論。
「だから!なぜそんなものを使うのかと訊いている!」
「なんで使っちゃいけねーんだよ!いいじゃねえか、便利なんだから!」
「そういう問題ではない!」
「うるせー!食えりゃいいんだ食えりゃ!」
厨房のドアの前で一甲と吼太はもう一度ため息をついた。
「だいたい、一鍬はいちいち細かいんだよ!」
「細かくなどない!」
「やめろ!二人とも!」
一甲の一喝。
二人の食事当番はお互いの胸ぐらをつかみ合ったまま扉の方を向いた。
開いたドアの前に苦虫を噛み潰したような表情の一甲と苦笑半分・投げやり半分な顔の吼太が立っていた。
慌てて一鍬と鷹介は手を放す。
「まったく、お前たちは・・・一体、何をもめていたのだ?」
「だって一鍬が・・・」
「鷹介の奴が・・・」
一甲の問い掛けに同時に答えようとして、また睨み合う一鍬と鷹介。
「まあまあ、二人とも落ち着け」
吼太が二人の真ん中に割って入る。
「言い分は順番に聞いてあげるから」
両側の二人の頭をぽんぽんと叩く。まるっきり子供のもめ事の仲裁なのだが、吼太がやるとイヤミがない。行動が余りにも自然だからか、それとも吼太本人の人徳か。たぶん、その両方だろう。
「はい、まず一鍬な」
「鷹介が・・・」
「はいはい、鷹介が?」
反論しようとする鷹介を押しとどめながら吼太が促した。
「これをみそ汁に入れようとしたのだ」
これ、と一鍬が手に取ったのは“ほ●だし”。
目が点になった吼太の腕を鷹介は振りほどいた。
「だって便利じゃねーか。それを一鍬が煮干しとかかつお節でだしをとれって言い出すから・・・」
「だしは料理の基本だ。それをおろそかにして食事が作れるか。それに・・・くそっ!こんなもの!」
一鍬が手にしただしの素の箱を床に叩きつけ・・・ようとして一甲に阻まれた。
「落ち着け、一鍬。仮にもそれは食品だ」
「放せ、兄者!これはもはや食品ではない!見ろ!賞味期限が過ぎているのだ!」
今度は一甲が目を点にする番だった。その一甲と吼太の目が同時に鷹介に向けられる。
「な、なんだよ、二人とも・・・賞味期限なんて気休めだって〜」
しれっと言う鷹介の言葉に、ついに一鍬がキレた。
「そういう問題ではない!ええい!お前には霞家の嫁としての心得をたたき込んでやる!」
再び鷹介の胸ぐらを掴み、お玉を振り上げる。
「オレは嫁にいくわけじゃねえ!」
鷹介も必死に反撃を試みる。
「うるさい!問答無用!嫌なら兄者との仲もこれまでだと思え!」
「う・・・」
一瞬、鷹介は言葉に詰まった。一鍬が自分と一甲の関係を手放しで認めているわけではないとわかっているからだ。
その一瞬が勝敗を決した。
「よし、ではまず、出汁の取り方からだ!」
嬉々として鍋と煮干しを取り出す一鍬。
賞味期限ショックで止めるタイミングを逸してしまった一甲と吼太に出来ることは、再びため息をついてその場を離れることだけだった。

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