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捜索中のインパクター星人と国防隊員が爆薬を所持している、という連絡が入ったのは、鷹介と一甲が広場をほぼ一周し、伝通院と天馬が双眼鏡と群衆で疑似乗物酔になった頃だった。
爆薬は国防省開発局から届いたばかりだった最新型。
まだ試作品段階で1個しかなかったものだが、A4書類鞄サイズのそれ1つでこの会場くらいは吹き飛ばせる威力だという。「やはりな」
双眼鏡を目に当てたままロギアはそう言った。
「やっぱりってどういうことだよ」
天馬が詰め寄る。
「ヤツは爆破が専門のテロリストだ。しかも愉快犯である傾向が強い。こういった場所にくればそこに破壊と混乱をまきたくなるはずだ」
「がーーーーーっ!そういうことは最初に言えよ!」
大げさに天馬は髪をかきむしった。態度にこそ出さなかったが伝通院も同じ気持ちだった。
「奴が地球に降りたときは爆発物は所持していなかった、と推察されている。地球で調達した可能性は考えられたがお前たちはロボットのことしか言わなかった」
「言わなくても察しろよ!」
「地球側の捜査の遅れを俺のせいにするな」
ロギアの言うことも一理ある。
が、ロギアからの情報があれば爆弾の件はもう少し早く判明していただろう。
「あーーー!やっぱりイーーーーー!!」
突然、素っ頓狂な声が三人の背後で上がった。
「うわ、超信じられねえ。ロギアまでいるし。誰かウソだと言ってくれー!」
突然現れ、エレベーターの扉の前で大げさに天を仰いでいる男。
「仁っ?!」
メッシュの入った茶髪や仕立てとセンスのいいスーツを見るまでもなくそれはセイザーダイル、秤谷仁だった。
「お前どうしてここに?」
「どうしてもなにもそれは俺のセリフでしょう。俺はお仕事だもん。今日のメインイベント、ベストカップル大賞の賞品知ってる?」
天馬と伝通院は首を横に振った。
「ハカリヤのローブデコルテ。要するにウェディングドレスね。だから俺もゲスト審査員で呼ばれてきてるんだけどさー・・・さっき、打ち合わせが終わってちょっと外に出て、なんの気なしに上見たら見たことのある顔が並んでてビックリよ」
心臓に悪い、と仁は大げさに胸を押さえた。
「で、このメンツが揃ってるって事は、なんかあったってことだよね?聞きたくないけど」
嫌そうに、しかしやはりグランセイザーの一員であるという自覚はあるのか仁は訊いた。
「この会場に爆弾を持ったテロリストがいる。一人はインパクター星人だ」
伝通院が簡潔に答える。
「げ、ウソ。マジ?てか、アンタら、こんなとこで何ノンキにしてんの!避難しないとダメでしょうが!」
「これだけの群衆に避難を呼びかけたらパニックになる。また我々の動きを知られたら即座に爆発を起こすかもしれん」
国防省の方針を伝通院が説明した時、天馬の携帯が鳴った。
「はい・・・ああ沖田さん。え?ああ、はい。了解・・・全員降りてこいってさ」
「ぜ、全員って俺もか?」
「当たり前じゃん」
「俺お仕事なんだけど?」
「ふっとんだら仕事も何もないだろう」臨時作戦会議室になっている総合警備室は展望タワーの地下にあった。
まだ抵抗し続けている仁を引きずって到着すると、すでに鷹介と一甲が戻っていた。あとは指揮権を持つ沖田とおぼろ、そしてもう一人。
「お?捕まえたのか」
椅子に縛られている男は手配書と同じ顔だった。ただし国防隊員の方。
だが、天馬の問いに対する答えはなかった。
「ん?みんなどうかしたのか?」
今降りてきた4人を除く全員が固まっていた。
彼らの視線は天馬を通り越している。
点、点、点、とその視線をたどるとその先には秤谷仁。
「?」
いきなり凝視された仁も、その後ろに立つ伝通院とロギアも事態を飲み込めない。
「沖田さん?えっと・・・仁は知ってるっしょ?」
「・・・というと本物の秤谷さんですか?」
天馬に言われてようやく瞬きした沖田が慎重に尋ねた。
「本物って・・・仁のニセモノでも出たのか?」
「これ見てみ」
ポチとおぼろがそばにあったボタンを押す。
正面のディスプレイに1つの顔が映った。
「げ、仁?!」
「俺え?・・・なわけないでしょ。俺こんな厚化粧しないもん」
言いながらディスプレイに近づいた仁がその横にたって一同を見た。
そこにいる仁は天馬たちがよく知っている仁。ディスプレイに映った仁は目の周りの隈取りハッキリ・・・
「もしかしてこれが捜してるインパクター星人?」
そういえば今まで出会ったインパクター星人はロギアもルシアもラディアも隈取り化粧顔だった。
「はい、彼の証言をもとに作成したモンタージュです。私も誰かに似ていると思ったのですが・・・」
「似てる似てないっつーかそっくりじゃん!おい、お前、本当に仁か?」
天馬が尋ねる。
もしかして自分はとんでもないものを連れてきてしまったのではないか。
「しまいにゃ怒るよ、天馬。俺は今朝の便でパリから帰ってきたばかりで、ここにきたのもついさっき。爆弾だのユウヒだのごちゃごちゃ説明されて大混乱中。以上!」
どうだ文句あるか、と腕を組む仁だがそれが本人だという証拠にはならない。
「そうだ。信用できないなら豪に電話しろよ。今日帰るって言ってあるから・・・でも迎えに来るどころか連絡1つないけどな」
少しすねた口調で仁は言う。
「都内は大変だったから仕方ないだろう」
ここへ来る前に遭遇した騒動を思い出して伝通院は言った。
あれだけの騒ぎであれば、豪なら非番でも出動するだろう。
「まあね。多分そんなところだろうと思ったけどさ」
「そう思うなら自分で電話したらどうだ?」
「やだ」
駄々っ子の様な口調の仁。
だが彼が本物と証明されなければ今後の捜査に差し障る。
しかし助け船は意外なところから出た。
「その必要はない。あれはセイザーダイルだ」
今まで黙っていたロギアが言った。
「どんなに変装しても間近によれば地球人と同胞の区別はつく。よって違う」
「ったく、ロギアのダンナ、それ早く言ってくれよ」
「ちょっとタイム。セイザーってことは天馬たちの仲間?」
話についていけていなかった鷹介が声を上げた。
「そうだけど。そう言えばアンタ誰?」改めて自己紹介が済んで作戦会議である。
現在わかっていることは、擬態したインパクター星人が仁にそっくりであること、爆弾は彼が持ち去っており、捕らえた国防隊員はその行方を知らないということである。
「根本的な手がかりはなしか」
「ホンマにあんた、なんでこんなことしようと思たん?」
縛られたまま悄然としている国防隊員におぼろが訊く。
「すみません・・・それがその、よく覚えてなくて・・・」
「洗脳、か」
一甲が言った。おそらくそうだろうと思ってはいたのだ。捕らえてはみたものの目の前の男はとてもこのような行動に出るタイプには見えない。バレンタインについて鬱積した思いがあってまんまと引っかかってしまったというのが事の真相だろう。
「じゃ、やっぱりインパクター星人を捕まえないとダメなんだな。仕方ねえ、行こうぜ」
と鷹介が席を立とうとする。
ここでごちゃごちゃ話しているより草の根わけても捜し出す方が性に合っている。
「ちょっと待った!今何時?」
ふと思い出したように仁が言った。
「14時28分」
正確に伝通院が答える。
「・・・なんかヤな予感がする。洸ケータイ貸して」
そう言った仁に伝通院は黙って携帯電話を手渡した。
他のメンバーは黙って仁のすることを見守る。
仁は自分の携帯を見ながら伝通院の携帯でどこかに電話をかけるようだ。
「あ、もしもしお世話になります。秤谷デザインオフィスで・・・え、秤谷、到着しておりますか?ああ、それなら結構です。電話?いえ、代わっていただかなくて結構です。到着確認だけですので。はい。いえ、こちらこそどうぞよろしくお願いいたします。はい、では」
愛想のよいビジネス口調の電話を終えた仁がゆっくりと一同を見回す。
その場にいる全員が事の次第を理解した。
ニセモノの秤谷仁(インパクター星人)は、何を思ったか仁になりすまして表にいる。
「リハの時間過ぎてるのにプロモーターから電話がなかったんで変だと思ったんだ・・・」
仁は頭を抱えた。
カチカチカチとおぼろがモニターを切り替える。
その手がある画像でぴたりと止まった。
「うわ、最悪・・・・」
誰からともなくそんな呟きが漏れた。
そこに映っていたのは舞台にすでに上がっている秤谷仁(のニセモノ)だった。
いったい何を考えてのことかはわからないが、テロリストが人が大勢集まっている場所の真ん中に堂々と立っているという状況は、たとえそれが異星人でなくとも最悪の事態だった。
が、それと別次元の最悪を感じたものがいる。
「あーもー、なんでこんな服で舞台上げるのさ!!」
仁が世にも情けない声を出した。
「服?」
「そう!アイツ、俺のつもりなんでしょ?それが・・・ああもう最悪。あんなの今どき田舎の不良でも着ないでしょ。勘弁してよ・・・」
画面に映る秤谷仁モドキはたしかにダサい。というか時代錯誤。とても今をときめくファッションデザイナーとは思えない。いくら顔が似ているとはいえ、スタッフも気がつかないのだろうか。
「まあ仁、マント男じゃなくてまだよかったじゃん」
と天馬が慰める。
確かに、彼らが今まで出会ったインパクター星人、ロギア、ルシア、ラディアは三人とも妙ちくりんなマントがトレードマークだった。
「あれ?そういや、ロギアは?」
一同、さっきまで彼がいた戸口の方を向き、次いでモニターを振り返る。
「げ!!」
全員何度目かの絶句。
「ロギア!!それはマズいって!!」
舞台の中央でにらみ合うロギアとニセ秤谷仁に警備室の全員が悲鳴を上げた。
「急げ、あいつら止めないと!」
「あそこで暴れられたら一般人に被害が出る」
「あーもう、今日は人生最悪の日だ!!」
「先に行くぞ」「装着!」
「シノビチェンジ!」