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舞台ではまさに一発触発の事態が起きていた。
バレンタインイベントのメインステージにはおよそ似合わない黒服黒マントの男と今日は特別変わった衣装のトップデザイナーがにらみ合う。
その異様さにメインイベントに備えて集まっていた群衆も舞台上のスタッフも戸惑う。
が、舞台上の当人たちはそんなことはお構いなしである。
「ふん、お前、ロギアだな。大勲章3個の英雄さまが征服に失敗したのがこんなチンケな星だとはな」
「それはお前には関係のない話だ。お前の存在には我が同胞、皆迷惑している。こんどこそ第1級監獄で死よりも恐ろしい思いをするといい」
「それはどうかな。返り討ちにして船をいただくとしよう」」
「やってみろ」
「うわ、始めやがった。おい!ロギア!やめろ!ここでケンカすんじゃねえ!」
やっとたどり着いたセイザータリアス・天馬が叫んだが、無視して戦いを始める二人。
舞台に穴が開き、テントが吹き飛んでもお構いなしだ。
激しい撃ち合いに天馬たちも近づけない。
「やめろって・・・あ!危ねえ!」
ロギアがかわした光線が客席の方へ流れた。
その時。
「迅雷流忍法・雷障壁!」
掛け声とともに空気がビリっと震えた。
同時に客席の方へ飛んだはずの光線が見えない壁に当たったかのように四散する。
「え?何?今の」
「一種の電磁シールドだ。しばらくは客席を守れる」
天馬たちの背後から現れたカブトライジャー・一甲がそう言った。
「疾風流忍法・小旋風!」
今度は一陣の風が舞台を吹き抜けた。
風はニセ秤谷仁の手から光線銃を巻き上げた。
「へへん、どんなもんだ。おとなしくしやがれ」
得意げなハリケンレッド・鷹介を含む総勢5人のヒーローとロギアに囲まれ、ニセ秤谷仁は観念した・・・ように見せかけて、突然走り出した。
「あ、くそ、この野郎待て!!」
ロギアと5人の地球人がその後を追う。
たちまちもぬけの殻になった舞台には無残に破壊されたセットと目の前で起きたことが未だに理解できていないスタッフと観客が残された。「あー、心臓に悪う」
「私も生きた心地がしませんでした」
警備室のモニター前でおぼろと沖田が疲れた顔でため息をついた。
「ほな、あんたら出番やで」
おぼろがモニターの向こう、舞台袖に待機していた黒子ロボに命じた。
5体のそれらがさっと散る。
「あとは舞台の損傷やけど・・・まあ局地的竜巻ってことにしとこか」
そう言いながら手持ちの端末で気象衛星にアクセスしているおぼろを見て、沖田はつくづくこの人が悪の道に進まなくてよかったと思った。
もちろん気象データの改ざんは犯罪だが、それを咎めるほど「堅物」沖田も頑固ではない。というか、「国の安全」と「軽犯罪」を秤にかければ前者に傾く沖田なのだった。
そして今はそれよりも気になる問題がまだ残っている。
新型爆弾だ。
この会場からはあのインパクター星人が持ち出したが、まだ取り返したわけではない。
民間人がいるところであれが爆発したら・・・。
「大丈夫や。この先に閉鎖中の旧コンテナバースがあるやろ。そこまで追い込むようウチの子らに言うてある。そこなら爆発したかて、どうせ取り壊す予定の倉庫や埠頭や」
「しかしそれでは彼らの安全が・・・」
「もちろん、爆発させんと取り返すのが一番や。万が一のときは・・・覚悟はできてるやろ」
そう言いきったおぼろの顔は沖田がかつて見たことのないものだった。
いつも明るく飄々としており、どんなときでも笑みを絶やさない人だと思っていた。
その奥にこんな表情を隠していたなんて。
「ん?なんや、沖田ちゃん、人の顔じーっとみて。さてはウチに惚れたんかいなー」
そう言ってカカカと笑った彼女はもういつもの日向おぼろだった。一方こちら追尾中のヒーロー混成チーム。
鷹介と一甲からおぼろの指令を聞いたセイザーたちも無理な攻撃を加えず目的の方向にターゲットを移動させていく。
「危ねえからお前ら帰ってもいいんだぜ」
そう鷹介が天馬に言う。職業として忍者である鷹介や一甲と、本業が別にある天馬たちとでは危険度の認識が違うかもしれない。
が、そう言われて引き下がる天馬ではない。
「バカにすんな。俺たちゃそんなにヤワじゃねーぜ」
「あれが爆発したら死ぬんだぞ!」
「爆発させなきゃいいんだろ!」
「オレは万が一の話をしてるんだ!」
「なんだよ、自信がないのか?!」
走りながら口げんかになってきた二人を引き離すべきか伝通院と一甲が目配せしたその時。
「あれ、爆発しねえかも・・・」
突然立ち止まったセイザーダイル・仁の一言にロギアを除く全員の足が止まった。
仁は足元からなにか小さなものを拾い上げた。
それは小さなキーホルダー。チェーンの先に白い動物のミニチュアがぶらさがっている。
「なにそれ」
「子ヤギのユキちゃん」
仁の返事に一同の頭の中は「?」でいっぱいになる。
「一昨日、パリの土産物屋でみつけて思わず買ったんだ。ほら、ヤギのモチーフなんてそうそうないから・・・ってことはアレ、やっぱ俺のゼロハリじゃん!!」
叫んで仁が駆け出した。慌てて4人も後を追う。
ゼロハリバートン、アルミ合金製アタッシュケースの高級ブランドである。
「ってことはアイツ、爆弾と間違えて仁のカバン持ってきたのか」
鈍くせー、と天馬と鷹介が合唱する。
「油断するな。爆弾はなくても相手はテロリストだ」
明らかに緊張が薄れた二人を一甲が一喝した。
「畜生ーー!アレは爆弾より全然大事なんだぞ!!!」
そう叫んで仁は「立ち入り禁止」のイエローフェンスを飛び越えた。後の4人もそれに続く。
500メートルほど向こうにロギアとそれに対峙する異星人がいた。
写真で見たニセ秤谷仁であるインパクター星人の正体。
防御重視なのか岩のようなゴツイ体形をしている。
「うわ、本体まで趣味悪い・・・」
絶望的な口調で呟いた仁だが、アタッシュケースのことを思い出し、ふたたび駆け出す。
「来るな!!これを爆破してもいいのか!」
岩石異星人が言う。追いつめられた悪者の典型的なセリフである。
「ダメだ!!よせ!!!それは爆弾じゃない!!!」
「何?」
仁の叫びに岩石男はこちらを向く。
「返せ!それは俺のだ!」
「ふん、そんな手が通用するか!」
言うなりその岩のような手がアタッシュケースに降り下ろされた。
「ぎゃあああ!やめろおおお!!」
ガコ。
鈍い音がしてケースがへこんだ。
だがそれだけである。
爆発はおろか煙も上がらない。
「だーかーらー言っただろおおおおおお!!」
仁は完全に逆上した。
誰かが止めるまもなくアックスタッガーを手に岩石異星人に切り掛かる。
流れるような連続攻撃。だが。
「効かんな」
「何っ」
がしっ、とごつごつした腕が仁を捕らえた。
「放せっ!この!」
仁はもがいたが力の差がありすぎてびくともしない。
天馬たちが攻撃しようにも仁が盾になっている形で攻撃のしようがない。
「いい人質が手に入った。こいつの命が惜しければロギア、船を渡せ」
「断る」
「なに?!」
「俺はウオフ・マナフの命令で動いている。地球人とは関係ない」
眉1つ動かさずそう言ったロギアに青ざめたのは天馬だ。
「おいっ!ロギア!」
「ホーンキャスター!!」
何を言うんだと掴み掛かった天馬の声に別の声が重なった。
続いて鈍い衝撃音。
仁を捕らえていた男が大きくよろめいた。
好機を逃さず仁がその腕からすり抜ける。
「仁!!無事か!!」
叫びながら駆け寄ってくる黄色い戦士。
「豪っ!」
「スパイラルホーン!!」
豪、と呼ばれた戦士すなわちセイザートラゴスは空中に高く飛び上がり、敵の頭上から真っ逆さまに突撃した。
不意打ちと連続攻撃にはさすがの岩体形もダメージを受けたようだ。
「今だ」
静かにロギアが号令をかけた。
ホロスナイパー、ドライガン、ホーンブレイカーが続けざまに火を吹く。
そして、
「バーーニング・ファルコン!」
「ファイナルゥ・ジャッジメント!!」
天馬と伝通院の必殺技が炸裂。
どーん、と大きな火柱が上がり、後にはぐったりと伸びた岩石男。
「し、死んだ?」
天馬が恐る恐る覗き込む。
隣に立った伝通院は思わず屈みこんで脈を取った。医者の習性だが、果たしてインパクター星人のバイタルサインは地球人のそれと同じなのだろうか?
「レムルズ、心配には及ばん。この程度ではこいつは死なん。もっとも、ここで死んだほうがましだったと後々思うだろうがな」
ロギアはそう言い、伝通院を下がらせると例の光るカードを大の字になった同胞の上にかざした。
するとなにもない空中から突然円筒状の物体が出現し、それは伸びたインパクター星人を
吸い込むようにして飲み込むと再び何もない空間に消えた。
「すげ、一甲、アレどんなカラクリだろ?」
「さあな、宇宙は広いようだ」