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新たに加わった豪に状況説明と本日何度目かの自己紹介をしながら総勢7人で広場に戻った彼らを満面の笑みのおぼろと、あまり表情の変わらない沖田が迎えた。
「ようやったで、みんな」
よしよし、とおぼろが鷹介と一甲の頭をなでる。
「爆弾はご連絡いただいた通り、タワー3階の控室で見つかりました。すでに特殊処理班が回収撤去済みです」
敬礼をしながら沖田が報告する。
「あーもう、死ぬかと思ったぜ。仁が気付かなきゃどうなってたか」
「でも被害は甚大だよ。ホント、これどうしてくれんのさ」
無残にひしゃげたゼロハリバートンを仁は悲しそうに見つめた。
「まあ中のスケッチが無事だったからいいけどさ」
「ユキちゃんも」
と鷹介が仁のストラップを差し出した。
戦闘中にまた仁が落としたのを拾っておいたのだ。
「サンキュー!気が利くねえ!」
大喜びで仁がそれを受け取る。
「なんだ、そのユキちゃんって?」
豪が仁の手元を覗き込む。
「え?あ、なんでもない。なんでもないよ、豪」
真っ赤になって豪からストラップを隠す仁。
天馬、伝通院、一甲、鷹介は笑いをこらえるのに必死だ。
なぜヤギなのかわからなかった鷹介と一甲も飛び込んできたトラゴスの姿を見た瞬間、すべてを理解していた。
「あーっ!いた!」
大きなだみ声が戦士たちの輪に割り込んできた
「秤谷先生困りますよ!本番始まってるんですから!」
駆け寄ってきたメタボリックシンドロームまっしぐらな男がむんずと仁の腕をつかむ。
「え?あ、本番?!うわ!すみません」
「はいはい、行きますよ」
仁の言い訳も謝罪も聞く暇ナシ、という態度でメタボ氏は仁を掴んだままズンズンと歩き出す。
「え、あ、ちょっと待・・・豪〜」
「行ってこい、終わるまでここで待ってる」
情けなく引きずられる仁に豪がそう答える。
途端に仁は満面の笑顔になった。
ピュー、と天馬が口笛を吹き、今度は豪が赤面する。
(なんか変な感じ。この集団男カップルばっかし)
ふと鷹介はそう思った。バレンタインデーに同性同士のカップルが3組も意図せずして集まるなんて不思議だ。去年のバレンタインデー、一甲とのことを他人に言えなかったばっかりに自己嫌悪で悶々としていたのが馬鹿馬鹿しくなる。
「ところで、豪、よく俺たちがいる場所わかったな」
思い出したように伝通院が尋ねた。
「いや、その、空港に迎えに行けなかったんで、こっちへ来れば仁に会えるかと・・・ついたらちょうどみんなが変身して走って行くのが見えたんだ。まさかロギアやこっちの人までいるとは思わなかったが」
こっちの人、とは鷹介と一甲である。
改めて一同はこの奇妙な出会いについて思いを巡らせた。
pirrrrr....
一瞬の静寂を破る携帯電話のベル。
音源をポケットから取り出したのは伝通院だ。
「はい伝通院・・・わかりました。すぐ行きます」
伝通院洸が天才外科医に変わる瞬間だった。
「すまない、緊急オペが入った。俺は病院へ戻る」
「ではヘリでお送りします。ここから都内までは渋滞ですから」
「お世話をおかけします」
沖田の申し出を伝通院はありがたく受け取った。
「では俺も帰るとする」
突然、ロギアがそう言った。
「えー、もう帰るのかよ。ゆっくりしていけばいいのに」
とても残念そうに天馬が言う。
「任務の途中だ」
「じゃあさ、片づいたらまた来いよ。あ、いっそ地球に住めばいいのに。結構うまく潜伏してたじゃん」
天馬の提案にロギアは皮肉な笑みを浮かべた。
「面白い意見だが、俺はレムルズに寝首を掻かれたくない」
「!」
いきなり矛先を向けられて伝通院がうろたえた。
「なに訳のわかんねーこと言ってんだよ。洸がそんなことするわけねーじゃん」
「どうかな」
「!!!!!!!!」
一同が息を飲んだ。
「じゃあな、あばよ」
何事もなかったかのようにロギアが姿を消す。
あとには存在の痕跡すら残らなかった。
「ってめえええええ!!こらー!ロギア!なんてことすんだーーー!!」
天馬の絶叫も宇宙までは届かない。
なんてこと、つまりキスである。
なんとこともあろうにロギアは天馬にキスをしたのだ。
ニヤリと笑った最後の顔が今ここにあったら十発はどつかないと気が済まない。
「あのヤロー、いっつもいっつも人をコケにしやがって」
どうにも腹立ちが収まらない天馬である。
「おまえさあ、もしかしてすっごい鈍感って言われねえ?」
ポツリと鷹介が言った。
「なんだよ、お前もケンカ売ってんのか?」
「そうじゃねえよ。なんで伝通院センセイはお前がいいんだろうって思っただけ」
「何?!」
「鷹介、他人の恋愛に口を挟むんじゃない」
にらみ合いの始まった二人を一甲が引き離した。
この二人を引き離すのは今日何度目だろう、と一甲は内心呟く。まるで相性の悪い猫を二匹連れているような感じだ。
「あれそういや洸は?」
「もう行ったぞ。オペに間に合わないと言って」
天馬の問いに答えたのは豪。
顔に「やれやれ」と書いてある気がするのは天馬の思い込みだろうか。
「えーーー」
「では俺も舞台の方へ行く。仁を待たせたら大変だ。またな、天馬。ちゃんと洸と仲直りしろよ」
「仲直りって・・・ケンカした覚えないんだけど・・・」
天馬は釈然としない気持ちで空を仰いだ。
伝通院を乗せたはずのヘリはもう見えない。
「よっしゃ、一甲ちゃん。ウチらも行くで」
頃合いと見たか、おぼろも行動を起こした。
「え?おぼろさん、一甲だけ?」
鷹介がおぼろの言葉を聞きとがめる。
「せや、いまからユウヒの修理せなあかんからな」
「オレは?」
「鷹介はあかん。あんたは機械と相性悪い」
「えーっ!そんなあ!」
「すまんな、鷹介。あれは俺に非がある。出来るだけ早く片づけて帰るから先に戻っていてくれ」
「一甲〜〜〜〜」
情けない鷹介の声が薄闇にくれるそらにむなしく響いた。