<6>
「おぼろさん!なんでここに?!」
「沖田さん!一体どうなってんだ?!」
鷹介と天馬が同時に叫んだ。
耳障りな急ブレーキで4人の前に停止したグレーとモスグリーンの四輪駆動車は天馬と伝通院にはおなじみのHondaエレメント国防省バージョン。
降りてきたのは迷彩服の国防省特殊部隊“月光”隊長・沖田総一郎(プラス隊員たち)、そして先ほど鷹介と一甲の名を呼んだ女性、すなわち日向おぼろであった。
彼女の奇抜な衣装に天馬と伝通院は少なからず面食らっていたが今はそれを言っている場合ではない。
一方の鷹介と一甲もまたおぼろと迷彩集団の取り合わせに戸惑っていた。
「はいはい、順番に話するよってに、ちょっと待ってや」それぞれの自己紹介ののち、沖田による状況説明が行われた。
内容を要約すると「国防省の兵器開発担当職員がテロを企てて兵器を盗み出して暴れさせた」ということになる。
ウオフ・マナフ撃退後、危急の事態は去ったと見た国防省上層部は御薗木特命課長の存在に危機感を持った。なにせグランセイザーとともに地球を守った英雄である。下手をすれば自分たちの地位が危ないと思った上層部は、特殊部隊月光の兵力削減という手段に出た。その一番の標的にされたのがユウヒである。
沖田の脳波によって操縦される、つまり沖田にしか操縦できないユウヒを、誰でも扱える超遠隔操縦型に変えて、月光ではなく国防省のどの部隊でも使えるようにしよう・・・という計画だったのだが、どこかで人選を間違ったらしく、プログラマーの一人ががコントローラーを持ち逃げし、さらにはユウヒを出動させてしまったという訳である。
「・・・まあ、沖田ちゃんくらいのカタブツやないと正義の味方はできへん、っちゅうわけやね」
褒めているのかけなしているのかわからないおぼろの評価であるが、それは真理であった。自分の目的のためにユウヒを動かすなど沖田には思いつくことすらなかったのだから。
「まあでもあんたらが現場に居合わせたのが不幸中の幸いやな。上手いことユウヒを止めてくれたわ」
おぼろの言葉に「うっ」と詰まったのは鷹介と一甲である。
「ん?どないしたん?」
「・・・いや、その・・・無事じゃないかも・・・」
「どういうことですか?!」
おそるおそる言いかけた鷹介に沖田が目の色を変えた。
「ぶ、無事じゃないってどういうことですかっ!」
唾を飛ばして鷹介につかみかかる沖田。
先程来、控えめに状況説明に徹していた様子とは180度の豹変だ。
一甲でさえ鷹介をかばうのが一瞬遅れるほどの素早さでもあった。
「た、隊長!落ち着いてください!!」
慌てて控えていた“月光”隊員が沖田を取り押さえる。常日頃沈着冷静な沖田がユウヒのことになると人が変わるのを彼らはよく知っていた。
「落ち着いていられるかー!ユウヒは、ユウヒは・・・」
「隊長っ!」
「沖田さん!」
なおも暴れる沖田の制圧に天馬と伝通院も加わって、ようやく沖田はおとなしくなった。
「あーもう、沖田ちゃん、相変わらずメカフェチやねんから」
安全圏まで引き戻された沖田におぼろはため息をついた。どうやら彼女には既知の事実だったようだ。
「で、あんたら、何してん?」
これは一甲と鷹介への問いである。
「雷撃を落とした」
潔く(?)一甲は答えた。
場に沈黙が落ちる。
「・・・・・・最悪やな」
コンピューターに雷は天敵。
一見無傷なユウヒだが、一瞬で機能停止に陥ったと言うことは、基盤が壊れたかコンデンサーが焼き切れたという可能性が高い。
「・・・い、一甲だってわざとやったんじゃないんだ。あの場合は・・・」
「よせ、鷹介」
「でも一甲」
「はーい、ストップう!」
一甲を弁護する鷹介と責任は責任とする一甲のやり取りを、おぼろはバシっと遮った。放っておくとすぐにただのバカップル会話にに変わることも彼女は熟知しているのだ。
日向おぼろ、忍風館特忍科首席卒業は伊達ではない。
「誰も責めとらへんがな。状況が状況やし、しゃあないとこはあるやろ。ユウヒの修理はウチも手伝うさかい、沖田ちゃんそれで勘弁したって」
「は、はい。私こそ取り乱して申し訳ありませんでした。なにぶんにも予算が少ないもので・・・」
実感と哀愁がこもった沖田の返答に、さすがに気の毒になる。
「じゃ、じゃあユウヒの件はおいといて・・・アレはなんなんだ?」
暗ーくなりそうな雰囲気を変えようと、天馬が指さしたのは背後でガラクタと化しているロボットもどきだ。
「あれも持ち逃げされたものでして・・・」
沖田が残骸を悲しそうに見つめながら答えた。
「げ、アレ、国防省製かよ」
「はい。ギグファイターをヒントにして作られたロボット兵士です」
失敗作、と伝通院は思ったが口には出さなかった。
言いかけた天馬の口は手のひらで塞いである。
傷心の沖田にこれ以上ダメージを与えないようにするせめてもの対策だった。
「なるほど、事態は理解できた。それで、おぼろ殿、なぜ国防省と一緒に?」
今度は一甲が尋ねた。
「いやー、それが、奇遇なこともあるもんやねえ。久しぶりに国防省に届け物した帰りに沖田ちゃんとお茶しとったらこの騒ぎや」
「沖田“ちゃん”・・・?」
こんどこそ、その異様な単語に4人は疑問の声を上げた。
どうみても“ちゃん”づけでは呼ばれそうにない男への呼びかけ、実はさっきから気になっていたのだ。
「ああ、言うの忘れとったわ。沖田ちゃん、忍風館特忍科の1コ下やねん」
「えーっ!」
驚いたのは鷹介と一甲のみ。
その肩を天馬がチョンチョンとつつく。
「ニンプウカンってなんだよ?」
「えーっと、その、平たく言えば忍者の学校」
「ええええーーーーーっ!」
鷹介の返答に天馬はさっきの鷹介の三倍も驚いた声を出した。
「沖田さんって、忍者だったのかよ!」
さすがに叫びはしなかったが伝通院も驚いていた。
まあ、忍者であるからにはおおっぴらに宣伝できるようなものではないだろうが、意外と身近な存在なのかもしれない。
「え、あ、いえ私は忍風館を卒業したあと国防省に入ったので・・・正式には忍者では・・・」
すっかり元の控えめな人に戻ってしまった沖田が謙遜する。
「せやねん。御薗木さんに上手いこと丸め込まれて持ってかれてしもてん。お父ちゃん悔しがっとったわあ」
「ま、丸め込んだなんて人聞きの悪いこと言わないでください
「なにいうてんねん、遺留されまくってたのを蹴ってお役人になったんやろ。もーほんまにミリタリーオタクなんやから」
「違いますっ!」
完全にからかわれパターンに入ってしまった沖田である。
この力関係が忍風館時代から続いていることが容易に想像できて、4人もそばで見ている“月光”隊員たちも沖田を気の毒に思った。
「でもさあ、忍者の学校ってあるんだな。俺も入ろうかな」
職業欄にフリーターとしか書けない天馬がぽつりとつぶやいた。
「お?ええで、ええで。沖田ちゃんも一目置くグランセイザーなら・・・」
言いかけたおぼろの言葉を、皮肉たっぷりな声が遮った。
「やめておけ。お前のように騒々しい人間には向かん」
「!」
弾かれたように天馬と伝通院は振り返った。
いつの間に背後に立っていたのか。
黒髪、キツネ目、黒マントの男。
一瞬にして走馬灯のようにあれこれ思い出すほど因縁のあった彼は、しかし二度と合うことはないはずの男のはずだった。
二人の目が驚愕に見開かれた。
「ロギア!!!」