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「ゆうひ?」
伝通院が口にした名前を鷹介はおうむ返しに呟いた。
「そうだ。正しくは五式支援機士ユウヒ。国防省が我々グランセイザーとともにウオフ・マナフの地球侵略に対抗するために作ったものだ」
「ぐらんせいざー?うおふ・まなふ?」
初めて聞く名前に鷹介は首をかしげた。ジャカンジャ以外の侵略者がいたというのも初耳だ。
「じゃ、さっきのあいつらは・・・?」
鷹介が指したのは先ほどのロボットの残骸。
「いや、あれは知らん。少なくとも我々が戦った相手とは違う」
「え、じゃあ、また別の・・・うわっ!」
再び大地が揺れた。
見上げる鷹介の前でユウヒが動く。
「なんでっ!」
鷹介が叫んだ。
「なんで国防省のロボットがあんなこと!」
伝通院は答えなかった、いや答えられなかった。
彼にもまたユウヒの行動ーまるで見えない敵と戦うかのようにまっすぐに正面のビルに突っ込んだーは理解できないからである。
そしてなおもユウヒは前進を試みて次の建物を破壊しようとしていた。
「止める!」
「待て!」
飛び出しかけた鷹介を伝通院は止めた。
「離してくれ!」
「危険だ!」
「んなコト言ってる場合じゃないだろ!」
「しかし!」
「いいから!」
鷹介が伝通院の腕を振りきろうとしたその瞬間。
ズドーン!!!
轟音とともに辺りが青白色の閃光に包まれた。
「・・・えっと・・・何が・・・?」
衝撃で地面に倒れた鷹介と伝通院はゆっくりと身を起こした。
空気がビリビリと震えている。
それ以外の物音は消え、辺りは静寂に包まれていた。
「雷?」
ふと伝通院が口にしたその単語は単なる知識と推察の結果である。
しかしその瞬間、鷹介は今起こった事象の顛末を理解した。
そして次の展開も。
「鷹介から離れろ」
冷たい一陣の風とともに吹きつけてきた声。
鷹介には怒りに満ちたその声の持ち主が顔を見なくても分かる。
その怒りが大いなる誤解に基づいていることももちろん分かっていた。
「待て、一甲!」
だから鷹介は慌てて飛び起きて、間近に迫った影に飛びついた。
「待て!誤解だ!この人は敵じゃない!」
「本当か?」
全身から怒りのオーラを発したままカブトライジャー・霞一甲は問うた。
「ホントホント!!」
鷹介が答えるより早く、肯定の返事は一甲の足下から聞こえた。
「あー痛え。ったく、乱暴に扱うなっつーの。荷物でももちっと丁寧に運ぶぞ」
一甲に文句を言いながら立ち上がったのは鷹介の見たことのない赤と金の仮面の男。
戦闘用スーツらしいその出で立ちだが、もちろんシノビスーツとは違う。
それはむしろ・・・
「あ・・・!」
思いあたって鷹介が地面に視線を向けるのと、伝通院が立ち上がるのが同時だった。
「天馬・・・」
赤い男を伝通院はそう呼んだ。
「よっ、洸。てなわけで、コレ、俺の仲間なんでその物騒なもの引っ込めてくれよ」
「なるほどな」
変身を解いた姿で各自情報交換を済ませたところで、伝通院が頷いた。
ユウヒは先ほどの一甲の雷撃のせいで機能不全に陥ったらしく最初に壊したビルの残骸の上に突っ立っている。
「本来ならばお互い正体を明かすべきではないのだろうが今は非常事態だ、やむを得まい」
一甲もいつものポーカーフェイスで頷き返す。
「なにがやむを得まいだよ。その非常事態をさらにややこしくさせかけたクセに」
天馬がブータレる。その手は未だわざとらしく尻をさすっている。
彼は最初の戦闘地点からここまで一甲に担がれて運ばれてきたのだが、先ほどの伝通院に対する一甲の誤解の顛末で路上に放り出されたのだった。
当然根に持っているが、天才外科医に「あとで湿布を貼ってやる」と一蹴され、さらにそこから二人の「関係」までバレる羽目になれば、もうブータレているしかない(せめてもの意趣返しにと、女子高生と一甲のチョコレートを巡る一件をバラしたら、伝通院に真面目に怒られた。曰く「グランセイザーのすることではないな」である)。
かくして、その場に「元・地球防衛戦士」しかも「モチーフが鳥とカブトムシ」という奇妙な符号点を持つ二組の「世を忍ぶカップル」が集まっているという異常事態が発生していた。
そして傍らには機能停止した国防省の巨大ロボット。
まわりには互いの知らないロボット兵士の残骸。
「で、これからどうする?」
鷹介が訊いた。
「まずは正確な情報収集・・・いや、誰か来る」
一甲は大きくカーブした通りの向こうに目を向けた。
人影はない。
が、忍びの耳は近づいてくる車のエンジン音を捕らえていた。
「隠れろ」
一甲の指示でまず鷹介が瓦礫の影に飛び込む。エンジン音は彼の耳にも届いていた。
事態の飲み込めない伝通院と天馬も首をかしげつつそれに倣う。この辺りは理屈ではなく、戦士としての勘である。
そして程なく遠くに姿を現した車体がその勘の正しさを裏付けた。
平時なら絶対に一発免停モノの速度超過で突っ込んでくるその車は果たして敵か味方か?
そう4人が身構えた時。
「鷹介ーーーー!!一甲ちゃーーーーん!!」