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突拍子のない行動に突拍子のない発言。
さすがは伝通院洸だと、天馬は混乱する頭の片隅で思った。
夜中とはいえ、ここはいつ誰が来るかわからない病院の中庭である。
しかも伝通院の仕事場。こんなところを誰かに見られたら仕事に差し障るに違いない。しかも土下座される謂れは天馬にはない。
そんな天馬のパニックをよそに伝通院はなおも言葉を続ける。
「本当は、お前がロギアを選ぶというならそれを止められないことは分かっている」
(やっぱりー)
と天馬は思った。やはり伝通院も誤解していたようだ。
しかし、彼の態度は天馬の予想とは180度正反対である。
普通の恋愛ドラマのような修羅場も予想していた天馬にとって伝通院のこの行動は全く予想外。
完全に意表をつかれた形でとっさに反応できない。
一時的に固まってしまった天馬をよそに伝通院はなおも言葉を続ける。
「俺はこの通り仕事しか能のない男で、しかもそれにばかり時間をとられて、お前とゆっくり過ごすこともない。ユーモアのセンスもなければ、趣味もない。面白味に欠ける人間だということは重々承知している。歳だって10近くも違う。こんな俺といても退屈だろう」
伝通院の誤解はさらに明後日の方にスピンアウトしてしまっているらしい。
「それでも」
不意に伝通院が顔を上げた。
どうしたものかと思案していた天馬は突然見つめられて慌てる。
「愛しているんだ」
あちゃー、と天馬は内心天を仰いだ。
が、実際には真剣に自分を見つめる伝通院から目が離せない。
ドキドキと心臓が暴れ出す。
とんでもない変化球投手に翻弄される4番打者の気持ちが分かる気がした。
さすがはキングオブ変人である。
(いやもう、ホント敵わねえわ…)
そう天馬は思った。
「あー、その、洸…とにかく立とう、な」
とりあえずこの状態だけは脱しようと天馬は伝通院の腕を取りながら立ち上がった。
伝通院はおとなしくそれに従ったが、表情は硬い。渾身の告白を保留された形なのだからそれも仕方ないだろう。
向き合うと自然に天馬が見上げる形になる身長差。
初めのうちは少々癪に障ったそれも、もう慣れたなと思いながら天馬は伝通院の顔を見上げた。
「あのさ…盛り上がっちゃってるとこ悪いけど、俺がいつお前と別れるっつった?」
天馬がそう言うと伝通院は苦しげに眉を寄せた。
「…悔しいが今日のお前は、ロギアと話しているお前は楽しそうだった…」
「そりゃ、楽しいだろ、友達じゃん。しかももう絶対会えねえと思ってたわけだし。それでテンション上がってはしゃぎすぎたと思うし、最後のアレは…正直、油断したと思う。けどそれで俺がロギアに乗り換えたと思うほうがおかしいだろ?」
「しかし」
「しかしじゃねえ!」
伝通院の反論を天馬は遮った。
二人の間に沈黙が落ちる。
「…なあ、俺ってそんなに信用できないか?」
先に口を開いたのは天馬だ。
「いや…そういうわけでは…」
「でも疑ってんだろ?じゃあ、聞くけどさ、洸はどうなんだよ?」
「どう、とは?」
「お前の言い方を借りれば、俺は10も年下のフリーターで、趣味って言ったらお前の興味ないバイクだけだぜ?そんなのでもいいのかよ?」
「そんなことは関係ない…あ…」
即答してから伝通院は己の思考の短絡さに気がついた。
してやったり、と天馬は笑みを浮かべた。
「だろ?俺だって同じだって。クソ真面目で仕事バカで、デートの最中でも仕事に行っちまうような奴でも、二週間も会えないことがあっても、お前が好きなんだ」言ってからその言葉の気恥ずかしさに天馬は顔どころか耳の先まで真っ赤になった。
「天馬…」
「あ、そ、その、だから今ここにきてるわけで…す、好きじゃなきゃわざわざ来ないだろ?会えるかどうか分かんねえのに…その、それでもちょっとだけ顔が見たいし…なんて思ったりして…」
喋れば喋るほどドツボにはまる。
面と向かって「愛している」などと言える伝通院はやはり変だ、と天馬は思った。