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「9時か…」
携帯の液晶パネルを見て天馬は呟いた。
なんだかんだ言って鷹介と結構長いことここにいたようだ。
さすがに冷えてきたのも無理はない。今は2月なのだ。
手の中で光る液晶画面には時刻とアンテナ以外の表示はない。
つまり不在着信もメールもなし。
往々にして予想できたことだが伝通院はまだ仕事中なのだろう。
それとも。
「怒ってんのか…?」
先ほどの鷹介の話では自分は伝通院そっちのけでロギアにくっついていたように見えたという。
二股かけてるとまで言われたのは心外だが、置きみやげにキスまでされてしまったわけで、事情を知らない鷹介から見れば伝通院先生が気の毒だ、ということになるらしい。
だが。伝通院は事情を知っているはずである。
ロギアがああして生きていることが奇跡であるということ、再び地球に来れたことがもっと奇跡であるということ。そしてロギアがとても皮肉っぽい性格であるということ。だからあの最後のキスは嫌がらせ以外のなにものでもないだろうということ。
「けど、やっぱリアクションなさすぎだったかも…」
あのとき、伝通院はロギアが逃げるより早くその場を去っていた。豪には時間がないからと言ったらしいが、そして多分それは本当だったのだろうが、その豪にまで「洸と仲直りしろ」と言われてしまったわけだから、やはり伝通院は怒っていたのかもしれない。
「どうするかなあ」
天馬は手に持った紙袋に目を落とした。
伝通院が天馬に渡すために買ったチョコレート。
恥ずかしかったかどうかは別として混雑するバレンタインデーの売場にわざわざ買いに行ってくれたわけで…
「やっぱり気い悪くしたかな」
このごたごたがなければ夕方から二人で過ごすはずだった。あの世事に疎い伝通院がめずらしく3日も前にお誘いメールを送ってきたのだから、結構気合いが入っていたのかもしれない。
結局は呼び出しでやはり潰れたかもしれないがそれはいつものことだ。
「どうするかなあ」
もう一度天馬は呟いた
呼び出しが5時頃だったからうまく行けば日付が変わる前に仕事が終わるかもしれない。
ならばこのまま伝通院のマンションに行って待ってるのも手だ。一応合い鍵を持っている身なのだから。
しかし天馬はめったにそれを使わない。なんとなく気恥ずかしいのだ。
だから伝通院から待っていてくれと言われたとき以外、使ったことがない。
「帰って寝るか…」
おやすみ、とだけメールしておけばそのうち向こうからメールが来るだろう。
実際、とてつもなく疲れている。
宇宙人&変人&久々の戦闘のトリプルパンチ。
こんな日にあれこれ考えたっていいことはひとつもない。
天馬はバイクにキーをさしこんだ。

【京南大学付属病院】

ぼんやりとした灯りに照らし出された門柱を見上げて天馬は頭を掻いた。
「なんでだよ…」
自宅に帰るはずがなぜこんなところにいるのか。
天馬自身にも説明が付かない。
バイクのエンジンをかけ、走り出してから、ふと伝通院のマンションを覗いてみることにした。
案の定、そこには帰宅した形跡はなかった。
それで納得して自分のアパートに帰るはずがここにいる。
送信するはずの「おやすみ」メールも結局出せないままだ。
だからといって、ここに来てなにか解決するのかと言えば、そんなわけはない。
伝通院の仕事が早く終わるわけでもなく、手術中なら会うことも不可能だろう。
「ちょっとだけ…ちょっとのぞくだけならいいよな…」
独り言でいいわけをしてバイクを停め、夜間通用口をくぐった。
入ってすぐの待合室は昼間より若干暗かったが、それでも何人かの患者やその家族が座っている。
(やっぱり、忙しいんだよな…)
そんな風に思いながら天馬はスタッフ用の階段に続く扉を開けた。
見咎めるものはいない。
もちろん万が一、気付かれたとしてもこのバイク便のジャンパーを着ていればごまかしはきくのだが。
それでも天馬はできるだけ静かに階段を上っていった。

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