<2>
ダブルサイズのベッドに転がってぼんやりと天井を眺めた。
オレと入れ替わりに浴槽に入った一甲はまだ出てこない。
ホントは一緒に入ってたかったんだけど、そうするとまたしたくなるし。でもあれ以上浸かってたら、しかもしちゃったりなんかしたら、絶対のぼせそうだから先に出た。
それにしても・・・さすがに立ったままはキツかったなあ。まあ、オレから誘ったんだから文句は言えねえけど。しっかし、考えたらオレ、すげえ恥ずかしいことしたり、言ったりしてたよな。
自分のした行為がリアルに思い出されて赤面する。
そうだ、オレ、一甲のアレを・・・うわー、普段なら絶対できねえ!
オレは赤くなっているであろう顔を手のひらで覆った。無意識に自分の唇を探る。まだそこにあの感触が残っている。
やっぱ、ココがそういう所だからできちゃうんだろうか?
カチャ、とドアの開く音がした。一甲も上がったらしい。
起き上がってそちらを向けば、バスタオルで頭を拭きながら出てきた一甲と目が合った。
整髪料がとれてボサボサになった髪がちょっとワイルドでドキっとする。
「絶景だな」
「え?・・・うわっ!」
言われた言葉の意味に気づいて慌てて前を隠した。そういうオヤジくさいこと言うなよ。
「隠さずともよかろう」
ふっと一甲が笑って顔を近づけてくる。少しだけ顔を上げてそのキスを受け取った。
ミントの匂いがする。
「一甲、歯、磨いたのか?」
「ああ」
「そっか。じゃ、オレも磨いてくる」
こういうのって気がつくと気持ち悪いんだよな。
ひょいっと、とはいかなかったけど、それなりに普通にベッドから降りて洗面台に向かう。
置いてあったカゴから歯磨きセットを取りだした。
一甲の唇と同じ匂いにちょっとだけこそばゆい気分で歯を磨く。
口をゆすいでから、ふと鏡に映った自分を見た。
洗面台の上の壁を全て占めている大きな鏡に上半身が全部映ってる。
それなりに広い肩、平らな胸、くびれのない腰・・・どこにも女の要素はない。
当たり前だ。オレは女じゃない。
でも一甲はオレを抱く。そしてオレも抱かれたいと思っている。
冷静に考えなくても普通じゃないって分かってる。もうそんなことは散々悩んだ。
それでもオレが一甲が好きだというそのことだけは変わらなかった。そして一甲だって。
【愛している】
月明かりの下で言われた言葉が耳によみがえる。
まさか聞けるとは思わなかった言葉。
だからオレはもう迷ったりしない。
「あ」
ふと見つけた赤い斑点。左の胸、乳首の斜め上。
あのサソリが刺した場所だ。
一瞬、あの痛みがよみがえる。けどあれは本当に一瞬だった。それよりもこの痛みを一甲はずっと抱えていたのだと気づいた心の方が痛かった。悔やむことがあるとすればその一点だけ。
「なんで気づかなかったんだろう・・・」
「苦労したからな」
不意に鏡の中に一甲が現れた。
「お前にだけは悟られまいと、必死だった」
鏡の中の一甲はそう言った。オレはなんとなく振り向けなくて鏡の中で目を合わす。
「その結果がそれだ・・・」
一甲の指が鏡に映ったオレの胸の斑点を指した。
「こんなの、なんでもねーよ」
オレはそう言った。けど一甲は首を横に振った。
「病室で死に瀕しているお前を見たとき、やっと己の罪深さに気づいた。俺はお前の本気を軽んじていたのだと。そしてお前の強さに甘えていたのだと」
「オレは強くなんかないぜ」
「いや、強い。俺は、俺が死んでもお前はそれを乗り越えていく強さをもっているとそう思い込んでいたが、お前の強さはそれ以上・・・他人の命に自分の命を懸けられるほど強かった」
「他人じゃない!」
オレは振り返った。
「確かにオレは馬鹿で単純で考えるより先に身体が動いちまうような奴だ。けどお前じゃなきゃああまでして助けたりしなかった。オレ・・・オレはハリケンジャー失格かもかもしれない。だってあの抗血清の話聞いたとき、オレ、一甲のことしか考えてなかった。もしうまくいかなかったらオレもお前も二人とも死んで地球は破滅する、って分かってても止められなかった。だって・・・オレには地球よりお前の方が大事なんだから!」
「鷹介・・・」
「オレだって後悔した。お前が苦しんでるのに気づけなかったこと・・・いいや、本当はなんとなくわかってた。でもせっかくつながった関係を壊したくなくて黙ってたんだ・・・でも、それでもオレはお前が好きだ」
じっと一甲がオレを見る。
ああ、やっぱりオレはこいつのことが好きだ。
今までのことも、昨日のことも、そしてきっとこれからのことだって、全部ひっくるめてオレは霞一甲が好きなんだ。
そう思ったら身体が勝手に動いた。
一甲の首を抱きかかえるように腕を回して、少しだけ背伸びをしてキス。
軽く触れてすぐに離した。
一甲が少しだけ戸惑ったような顔をしている。そんな顔も好きだって思っちゃうんだからやっぱりオレってお前にベタ惚れなんだよな。
「それともオレは他人なのか?お前がさっき言った言葉は・・・あ、愛してる、って言ったのは嘘か?」
顔を寄せたままそう言うと、一甲の口元が少しだけ綻んだ。
「嘘ではない」
ぎゅうっと抱きしめられて告げられた。
ズルイ。また顔を見せない気かよ。
でもな、ここ、三面鏡なんだぜ?ちょっとだけ横目で見れば照れ臭そうなお前の顔が見えてる・・・ってのは黙っておこう。
「一甲、逃げるんなら今のうちだぜ。オレは本当に本気だからな」
「逃げも隠れもせん。今度こそ、その本気に誓う。俺は一生お前とともに生きる」
一甲からのキスは今までのどれよりも甘かった。