あっという間に日にちが過ぎて,9月25日土曜日,仁の誕生日の日を迎えた。

当日は結構バタバタしたが,何とか間に合いそうな時間に仕事を終わって,豪は着替えをして,会場である店に向かった。
着ているものは,1番最近,仁が豪のために選んでくれた洋服だった。
柔らかな素材のジャケットとパンツに,シンプルなシャツ。
青の方が少し強い感じの深みのある紫がかった色のジャケット。そろいのパンツに,ほんとに薄いブルーの入ったのシャツ。
その内ポケットには・・・
悩んだ末に買ったプレゼントを持って。

お店に着いたのが5分前だった。
入ってみると,未加と剣,それに蘭の姿がすぐに見えた。愛と辰平もいて。
「あ,豪,早かったわね。」
未加の言葉に,奥から,誠と直人,涼子が顔を出した。
「あら,豪,そのスーツ素敵ね。」
「今までと違いますね。でもすごく似合ってる。さすがですね,仁さん。」
「えっ!なんでわかるんだ?」
「やっぱり。」
蘭ににっこり微笑まれて,カマをかけられてことがわかった。
「仁のお見立てなのね。秤谷ブランドではなさそうだけど,さすがにプロは違うわね。」
涼子の言葉に頷いた直人が一言,
「気合いの入れようが違うんだろう。」

みんなが妙に納得してシーンとなったその場の気まずさに,思わず,
「何か手伝うことがあるか?」
というと,すかさず剣が言った。
「ちょっと外でさ,仁さん迎えてあげてよ。もうすぐ着くってさっき連絡あったんだ。」
「それが俺の仕事な・・」
全部言い切る前にみんなに頷かれて,豪は店の外へと出た。

郊外にあるその店の回りは緑がたくさん植えられていて,店への入り口までの階段を上がると,入り口の横にはオープンテラスがひろがっていた。
階段に腰掛けて,空を見上げた。
空はまだ十分に明るく,でも落ち着いた藍色で,まわりの緑も目に優しい。
仁へのプレゼントをポケットから出して,手のひらの上で何となく転がして。

「豪・・か?」
その声に,あわてて手にあったものをポケットに入れ,顔を上げると,そこには長身のシルエットがあった。
「洸・・」
「何をしている?」
「仁のお出迎えをしろってさ。」
「そうか。」
そういうと横をすり抜けて店に入ろうとする。だが,ドアを開ける寸前に振り返って,
「天馬は,来ているか?」
「いや,まだだったぞ。」
その答えに,洸は店に入らず,豪の横に腰掛けた。
「おい,そこに腰掛けたら,階段がふさがってしまう。」
「誰か来たらよければいい。俺もつき合おう。」
「・・ってお前は天馬を待ってんだろうが。」

程なく,タクシーが着いて,慌てて降りてきたのは仁だった。
「遅れた?!」
豪はゆっくり立ち上がると,仁の方へ向かった。
「大丈夫だ。まだ揃ってないしな。」
笑いながらそう言う豪に,ちらっと洸の方を見た仁が囁く。
「天馬か?」
「ああ。」
連れだって入っていこうとする豪と仁を,洸が留めた。
「主賓はまだ待ってくれ。もうすぐ,天馬が着く。」
顔を見合わせて,2人は階段の1番上に腰掛けた。

「豪,着てくれたんだ。」
仁が小さな声で言った。
「ああ,評判はよかったぞ。」
「当たり前。だれが選んだと思ってんの。」
「それはそうだ。」
二人で小さく笑い合いながら,暮れゆく空と吹いてくる秋のにおいのする風を感じていた。
不意に,仁が呟くように言った。
「この色・・さぁ,俺の色と似てない?」
「仁の色?」
「というか,ダイルの・・」
ゴホンという咳払いが聞こえて,
「俺もいるんだが。2人だけの時にやってもらえないだろうか,そういう会話は。」

そのとき,バイクの音が近づいてきて店の前で止まった。
「おい,天馬。お前バイクなのか?!」
「しょうがなかったんだよ,遅れそうで。」
「遅れてんだろうが。」
とがめるように豪が言った。そして1番気になったことを念押しする。
「飲むなよ,天馬。」
豪の言葉を遮るように洸が天馬の前に立って,
「まあ・・それはまたあとだ。とにかく,みんな待ってる。早く入ろう。」
と,3人を促した。

next