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その電話を受けたとき、既に一甲は異変に気づいていた。
無人の部屋、朝干したままの洗濯物・・・先に帰宅しているはずの鷹介がいない。
遅くなるなら必ず連絡してくるはずだが、ポケットから取りだした携帯電話にはメールも着信記録もない。
念のために留守番センターとメールサーバーにもアクセスしてみるが、やはりどちらにもメッセージはなかった。

そしてその電話がかかってきたのだ。
『疾風の小僧を預かっている』
機械処理された音声が無機質に流れる。
だがそれは一甲を動揺させるのに十分だった。
『交換条件はシノビニウム。場所は・・・』
一甲の心情に関係なく、テープは流れ場所と時間を告げて一方的に切れる。
ぎり、と一甲は奥歯を噛みしめた。
おそらく想定できる中で最悪に近いことだった。
鷹介は攫われたのだ。
こちらの事情を知っており、かつシノビニウムの存在を知っている者、そして鷹介を捕らえられるほどの実力者・・・つまりは迅雷の上級者に。
心当たりはいくらでもある。
もともと流派の厄介者だった。それがゴウライジャーとなり、ジャカンジャを倒した今となっては生きた伝説。厄介者が目の上のコブになったと思う者もいるだろう。さらに疾風や御前様に近しい彼らを迅雷にとって脅威と考える者もいるはずだ。
だが、そうは思っても実際に手を出すのはリスクが高い。
あえてそれを行う者がいるとすれば、相当な実力とコネクションを持った人物、もしくはこのマイナスを差し引いても上回る利を得られる者ということになる。
そしてシノビニウム。古くから迅雷の者に使われてきた鉱石だが今はもうほとんど産出しなくなったものだ。
現存する僅かな物はエネルギー研究所に保存されている。それを奪ってこいということだろう。
かつて、一甲と一鍬がそうしたように。
「嫌なことを思い出させる」
暗い笑みが一甲の頬をかすめた。
あの時、シノビニウムを奪うため一甲は鷹介を撃った。鷹介だけでなく一鍬と吼太をも。
そして、そうまでして得たものがあの残酷な父の言葉だった。
「因果応報・・・これもまたそうか」
吐き捨てるようにつぶやくと一甲は足早に部屋を横切り、押し入れの天袋から装束を取りだした。
すらりと抜いた刀身に曇りのない事を確かめ鞘に戻す。
「・・・鷹介」
愛しい者の名を呟いて、一甲は闇の中へ駆け出した。

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