春の嵐
<1>
いつものように近道の公園を横切ろうとして、鷹介は異変に気づいた。
「なにか用か?」
自分を取り囲むように姿を現した男達に鷹介はそう訊いてみた。
益のある答えを期待したわけではない。相手を観察するちょっとした時間稼ぎだ。
いかにもヤクザといった風情の若い男が8人。うち半数はナイフを持っている。
どろりと濁った目は何者かに操られていることを示していた。
次の瞬間、男達が一斉に殴りかかってきた。
だが、いくら荒っぽいことに慣れている風でも、忍者である鷹介に敵うはずもない。
突き出されるナイフの上をふわりと跳び、空中で蹴りを放つ。
空忍ならではの攻撃に一瞬で4人が倒れた。
だが命令に忠実な操り人形たちは臆すことなく次の攻撃を繰り出してくる。
5人目を吹き飛ばして、再び跳んだとき。
「!」
突然、鷹介は硬直した。
いや、させられたのだ。
鷹介の身体には無数の糸が絡みつき、その自由は完全に奪われていた。
「蜘蛛の糸?」
それが忍びの使う得物、粘着性のある特殊な繊維だと気づくのと同時に地面に叩き付けられる。
全く受け身を取れない状態での衝撃。
左腕に覚えのある痛みが走る。おそらく骨をやられたのだろう。
「くそっ・・・誰が・・・」
かすむ目を開けると、目の前に黒い革靴があった。
それが流れるように動いて鷹介の顎を蹴り上げる。
仰向けに飛ばされて、今度は背中から落下した。
痛めた腕を激痛が襲う。叫びだしそうになるのをかろうじて鷹介は耐えた。
「伝説の後継者も一人ではただのヒヨコか」
嘲るような声の主を必死に振り仰ぐ。
見たことのない顔だった。
ただ剣呑な雰囲気からただ者ではないことは伺える。もっとも普通の人間に蜘蛛の糸など扱えるはずもない。
「お前は・・・?ぐっ!」
身を起こそうとした鷹介の鳩尾に男の靴先がめり込み、鷹介は意識を手放した。