春来
大晦日の日,神谷豪は夜勤だった。
独身の若い警官に年末年始の夜勤が回ってくる状況は仕方のないもので,豪も既に当たり前になっていた。
「さて・・いつ帰れるかな。」
こんな日に,一人静かに過ごせるはずもなく,酔っぱらいが運び込まれたり,けんかの通報があったり,交通事故があったり。
やっと一息つける状態になって,ふと時計を見ると・・・
とっくに除夜の鐘の鳴り終わるような時間になっていた。
そのとき,豪の私物の方の携帯がメールの着信を伝えた。
「なんだ,こんな時間に?」
なんだかわからないのが気持ち悪くて,仕事中にもかかわらず,首をひねりながら携帯を見た。
そこには・・・
『アハッピーニューイヤ〜☆今年もよろしく!お仕事がんばれ〜小市民!!』
秤谷仁からの新年のメールが表示されたのだった。
ツッコミを入れようとしたそのとき,けたたましく交番の電話が鳴った。
それは,酔っぱらいのけんかを知らせるものだった。
行ってみると,かなりの大人数で,しかも未成年も混ざっているふうで。
とにかく,そこに駆けつけてきた警官数人で手分けして警察署やら交番やらに連れて行き,身元のわかったものから引き取りに来てもらう手続きをしていった。
酔っている人間の相手は思ったより大変で,しかも大人数だったため,最後に一人が引き取られていく頃には,もう日の出を迎えるような時間になってしまっていた。
一息ついていると,外は徐々に明るくなり始め,目の前に元旦の風景が広がっていった。
朝ご飯にと,先輩警官から差し入れがあり,おいしくおせちをいただくと,また元気が出た豪は,せっせと勤務に励んでいた。
相変わらず,酔っぱらい絡みの諍いは多く,手間を食うことは変わりなかった。
だが,着飾った人に道を聞かれたり挨拶されたりすることも多くなってきていた。
「新しい年を,迎えたんだ・・な。」
そう思ったら,まだ携帯がふるえて。
電話だった。私物の携帯だったため,だれからか,予想はついたが,出なかった。
すると,今度は交番の電話が鳴った。
携帯へ電話してきたであろう人間のことを考えてちょっとボーッとしていた豪は,慌てて電話に出た。そこに聞こえてきたのは,
「豪!」
という聞き慣れた声で,しかもシンクロして聞こえてきたのだった。
豪が入り口の方を向くとそこには携帯を持った仁がいた。
「何で出ないんだよ。」
「勤務中だろうが。」
「全く・・堅いね,相変わらず。豪らしいけど。とにかく電話置こ。」
2人して電話を置き,豪は仁にいすを勧めた。
「何か,用か?」
「なあ,これからの予定どうなってんの?」
「このまま夜中まで勤務だ。それが終わったら,次は3日の夕方からの勤務だ。」
「え,お前,昨日の夕方から仕事してるよな?長すぎねぇ?」
驚いた様子の仁に,豪は苦笑しながら答えた。
「まあな,普通はな。でも独身の若いもんがこんな時くらい役に立つのもいいだろう?」
その豪の言葉に,事情は察するものの,まだ納得のいかない顔の仁に
「どうした?」
「身体・・大丈夫なのか?食い物は?」
「おいおい,仁。お前だって徹夜なんてよくやってるだろう。大丈夫だ。」
笑いながら答えてやる。
「でも・・」
「大丈夫だから。ん・・じゃあ,差し入れ持ってきてくれ。甘めのデザートかなにか。」
まだちょっと渋い顔をしながらも,
「わかった。ついでに晩飯,何か見繕ってくる。」
というと,交番を出て行った。
背中を見送りながら,豪は思わず笑みがこぼれた。
仁が買い物から帰ってきて,買ったものを豪に渡した。
「じゃあ,俺帰るわ。なあ,終わるの何時頃かわかんの?」
「はっきりとは言えないな。勤務時間が終わったら,はい終わり・・ってわけにはいかないからな。何事もなければ,今日が終わる頃には帰れる予定だ。」
「そっか。わかった。無理すんなよ。」
そう言って,仁は手を振りながら帰って行った。
豪もそのまま帰れることを願っていたが,初詣で賑わう神社の警備にかり出されることになってしまった。荷物もそのままに,現場へと出かけることになった。