Lovely Christmas ?
「真っ赤なお鼻の〜」
右、左、右・・・
持ち主の動きに合わせて小さく揺れる尻尾を一甲はじっと見ていた。
楕円形のふわふわの塊をお尻にくっつけて、鷹介は楽しげに皿を洗っている。
頭には茶色い耳と角の冠り物(カチューシャというらしい)。ご丁寧に首には鈴がついていてどことなく調子の外れた鼻歌に合わせてチャリチャリと音を立てている。
尻尾と合わせてそれら「トナカイ3点セット」は洋服店や雑貨店が立ち並ぶ通りで昼間買い求めたものだ。
そう本日は俗に言うクリスマス。
それにかこつけて、彼らは一日浮かれた「デート」というものを満喫した。
鷹介の要求に従って、朝一番で話題のアクション映画を鑑賞し(スクリーンより鷹介を見ていて怒られた)、雑誌で紹介されていたというパスタの専門店で昼食を食べ(パセリを除けようとしたので無理矢理食わせた)、洋服店や雑貨店が建ち並ぶ通りをぐるぐるとまわり(結局買ったのはトナカイセットとサンタクロースのロウソクだけだった)、夕食は一甲が作るという約束だったので鷹介のリクエストで定番であるらしいの骨付きチキンのグリルを作った。
そして今「ここからはオレが一甲のいうこと聞くからね」と宣言した鷹介は調子外れの鼻歌を歌いながら皿を洗っている。
楽しげなその後ろ姿がどうにも魅力的で一甲は目が離せない。
あまり飲み慣れぬワインなどというものを飲んだせいかもしれない。
この程度のアルコールで酔うはずもないのだが、と思いつつグラスに残ったワインを咽喉に流し込む。
アルコールのせいばかりともいえないかもしれない。
(あのエプロンは目の毒だ)
と一甲は思った。鷹介が買ってきたそれは腰から脚のラインを際立たせるための衣装にしか見えない。
誘蛾灯に誘われる虫のように一甲はふらりと立ち上がった。
ほんの少し自制の声がしないではなかったが、誘惑は強かった。
グラスを手にしたまま鷹介の後ろに立つ。
「あ、一甲、ものそのグラス洗っていいのか?」
無邪気にグラスに伸ばされた手を掴む。
「一甲?」
疑問符を浮かべる可愛らしいトナカイをたまらず抱きしめた。
「ちょ、ちょっとなんだよ、いきな・・・んっ」
抗議の声を唇で吸い取り、急速に熱を帯びてくる部分を鷹介の腰に擦り付ける。
かああっと鷹介の首筋が朱に染まった。
何とかこの手を抜け出そうと無秩序に暴れだす。
仕方なく一甲は鷹介を離した。
「もう、なにがっついてんだよ!」
真っ赤な顔で鷹介はわめいて、ぷいとそっぽを向いた。首に付けた鈴がちゃりんと鳴る。同時に角や尻尾が誘うように揺れた。
「すぐに終わるからあっちで待ってろよ」
そう言って再び洗い物に戻る背中を後ろから抱きしめる。
「おい、一甲!」
「俺の好きにしていいのではないのか?」
耳朶を噛むように囁けば、敏感な背中が小さく震えた。
「・・・それはそうだけどさ・・・ここでスル気か?」
「そうだ」
首筋へのキスを繰り返しながら前に手を回す。
「オヤジ趣味」
そう悪態はついたが、今度は鷹介も抵抗しなかった。
エプロンの脇から差し入れた手で、ジーンズの前をなぞる。
「んっ」
もうその部分を知り尽くした指は容易に的確に鷹介の反応を引き出せる。
鷹介は観念したように背中を預け、されるがままになった。
徐々に形を変え始める鷹介のソレをなで回しながら煽り立て、さらにゆっくりとジッパーを下げる。
「ん・・・一甲、お前やらしい・・・痴漢みたいだぜ・・・」
喘ぐように鷹介がつぶやいた。
「ほう、そんな経験があるのか?」
確証があったわけではない。だが、当たりだったようだ。
「いつだ?」
問う声が我知らず低くなる。思わず身を離そうとした鷹介をぐっと抱きしめた。
「・・・忍風館に入る前」
不承不承と言ったふうに鷹介は答えた。
「だ、だけど、未遂だからな!中は触られてないからな!」
「本当か?」
栓無いことと分かってはいるが、ついそう訊いてしまう一甲だ。
「ホントだって!・・・お、お前だけなんだからな。触らせたの」
ちらりと肩越しに見上げてくる視線。
睨んでいるのか誘っているのか、相変わらず判断のつきにくい視線である。
「嬉しいことを言ってくれる」
ピンクに染まった目尻に口付けて、一甲は止めていた指を再び動かす。
前ボタンを外して下着の中まで手を差し入れると鷹介の口から甘い吐息が漏れた。
握った鷹介自身がぐっと充実する。
「なあ・・・やっぱり今ここですんのか?」
「いやか?」
身体の方は嫌がっているようではないが、聞いておく。鷹介は時々、突然ヘソを曲げることがあるのだ。
「だって・・・んっ・・・ま、まだケーキ喰ってないし・・・」
またか。
一甲は一つため息をついて手を引き抜いた。
「ケーキはあとだ。少しくらい動いたあとのほうが美味かろう」
まだまだ色気より食い気の鷹介の胃袋は時々色事を中断させてくれる。しかし、今は食事をしたばかりだ。ケーキを食べたくなるほど空腹とは思えない。
「なんだよ、それ。食後の運動ってやつ?」
「そういうことだ」
鷹介の身体を反転させ、既に半分脱げかけたジーンズを下着ごと引き下ろす。
「もー。しょうがねえなあ」
そう言いながら鷹介は続きを自分で器用に脱ぎ落とした。
「ああ、それはそのままでいい」
エプロンに手をかけたのを制して抱き寄せる。
「オヤジ」
べえっと出された舌を唇でからめ捕り、エプロンの下に手を滑らせる。
赤い布の下に息づくモノは態度とは裏腹にすっかりその気になっていた。
「そうだな・・・」
一甲は呟くと、ひょいと鷹介を持ち上げ、調理台に腰掛けさせた。
「冷てえ!」
そう鷹介は言ったが、好きにさせると言った手前か、大人しく腰掛けている。
常よりも低い位置にある鷹介の唇に合わせて身をかがめて口付けた。
口付けながら右手を鷹介の下半身を覆う赤い布にかけ、一気にまくり上げた。
「わ、一甲、こら!この変態!」
わめく鷹介を無視してすばやく赤い帳の中に潜り込み、中心で息づいていたものをくわえ込む。
「あっ!一甲・・・んんんっ!あっ、はあ・・・」
宙に浮いた両足が与えられる刺激にばたばたと宙を蹴った。
その白い靴下が余計に淫靡な視覚を与えるとは鷹介は気づいていまい。
とはいえ、ボコボコと蹴られては集中できない。一甲は鷹介の膝裏に両手を差し込んで抱え込んだ。
「うわっ!」
がしゃん!
鷹介の声と、物がぶつかる派手な音。
「どうした?」
慌ててエプロンの下から顔を出せば、後ろの壁にかろうじて支えられている鷹介の上体とその頭に乗ったフライ返しが目に入る。回りにも壁に掛けてあったはずの調理器具と鷹介の頭にあったはずの角が散乱している。
「も〜、いきなりひっくり返すなよ〜」
どうやら足を持ち上げたためにバランスを崩して後ろに転んだらしい。
「すまんな」
手を貸して起き上がらせてやる。
普段なら鍛練が足りないと小言の一つも言うところだが、ここで鷹介の機嫌を損ねるのは得策ではないと一甲は知っている。代わりに吹き飛んだムードを取り返すべく唇を重ねた。
後ろに回した手でエプロンの紐をほどき、腕を抜く。頭を抜く時だけは仕方なく唇を離したが、次の瞬間にまた捕らえる。
同じように上に着ていたものもすっかり脱がしてしまうと、そこにはまな板の鯉ならぬ、調理台の鷹介。首に付けた鈴だけが絶妙のアクセントだ。
なかなかにそそるその光景をしげしげと眺める一甲に、鷹介が菜箸を投げつけてきた。
「絶っ対に、コメントすんなよ」
上目遣いに睨みつける表情にクラクラしながら頷いて、一甲は再びキスをする。
唇から首筋へ、首の鈴を一度舌先で鳴らしてから胸をたどり綺麗な形の臍を舐め上げた。
背中に回した両手はくっきりと浮かび上がったな鷹介の背筋から腰までを丁寧になでまわす。初めて抱いたときはまだどこか幼さがあったその背中は、この一年で随分と筋肉をつけ男の背中になった。しかしだからといって、色気が無くなったわけではなく、いやむしろ余計に蠱惑的になったと言ったら、鷹介は怒るだろうか?
「あ、そーだ」
突然、鷹介があまり色気のない声を出した。
「なんだ?」
今度は何を言いだす気だ、と一甲は眉を寄せる。
「なあ、一甲、ケーキ持ってきてくれよ」
「またケーキか・・・」
「や、違うって・・・いや、まあ食べるんだけどさ・・・絶対エッチだから」
いつもながら唐突に訳の分からないことを言う奴である。しかしそのニコニコと笑う小悪魔の顔に勝てるわけもなく、言われた通りに一甲は冷蔵庫からケーキを取り出した。
商店街の端の猫のいる小さなケーキ屋で買ったそれは苺と生クリームだけのシンプルなものだ。飾りは砂糖菓子のサンタクロースと「Merry X'mas」の文字の入ったチョコレート。
箱から出したそれを鷹介の横に置いた。