コーヒーのいい香りが漂い始めた頃,豪がリビングに戻ってくる気配がした。
ドアの開く音がしたので,そちらに向かって俺は声をかけた。
「豪,はらへってないか?なんならなんか買ってこ・・」
またいきなり抱きすくめられて,豪の顔が俺の首筋にうずめるように寄せられて。
「おい,豪?どうした?眠いのか?」
じたばたともがく俺をさらに強く抱きしめた豪は,首を横にふる。
「じゃあ,何?どした?」
「仁・・・」
「はい?」
「仁・・・」
「うわっっ」
いきなり豪に抱きあげられ(所謂お姫様だっこというやつだ),寝室へと運ばれた。
ベットに寝かされて,初めて豪の格好を見た。
俺が置いておいた服は着ておらず,腰にタオルを巻いただけ・・・
って・・あの,もしもし豪さん?
ひょっとしてやる気満々?
そう思って豪の顔を見ると,そこには真剣な瞳があった。
数ヶ月ぶりの逢瀬じゃん・・。不意にそう思ってしまうともうダメだった。
仕事のことも,今の時間も,何もかもがその瞳に吸い取られてしまった。
いつもの豪とは思えないような,強引さで俺は組み敷かれた。
豪の長い手足に絡め取られ,喉がかれるまで啼かされ・・。午後からとはいえ,とても仕事をするような状態ではなくなってしまっていた。
というか・・気がついたら,お昼をとっくに過ぎた,むしろ夕方に近い時間だった。
横を見ると豪はいなくて。
ドアの向こうで何か音がしていた。
不意にドアが開いて,豪が入ってきた。
「あ・・仁・・仕事・・は・・・あの・・・」
「あるに決まってんでしょ。」
掠れた声で,わざと不機嫌に答えてやった。
あの強引さが嘘のようにうろたえる豪は,いつもの豪に戻っていた。
「仁・・・」
大きな体でしゅんとしてしまった豪に,思わず笑ってしまった俺は,
「ん,大丈夫だよ。明日,今日の分までがんばればいいからさ。」
今日1日は仕事を放棄することを決めた。そして,徹底的に豪に甘えてやろうと思った。
「飯,作った。喰わないか?」
「うん,食べる。って,材料,なんにもなかったでしょ?」
「ああ,相変わらずな。買いだし行ってきた。」
豪は,俺が出しておいた服を着ており,アクセサリー類はもちろんしていなかった。
ただ・・・違和感の拭えない長髪に金髪・・はそのままだったけれど。
「休み,いつまで?」
「今のところ明後日までは休んでいいって。」
「じゃあ,とりあえず,明日はその髪の毛を何とかしよう!」
「なんとかって・・」
「色はいいよ,そのままでも。でも,仕事上でもその長さはやばいんじゃないの?」
「・・色だってやばい・・だろうな。」
刑事さんだもんなあ。
「じゃ,とにかく,明日さ,俺が行くとこに行こう。俺がいつも頼む人にこれから予約いれとくからさ。」
「や・・それは・・」
「豪が行ってる散髪屋さんじゃ,多分無理だぜ。いっしょにいこ!な,決まり!」
「明日は仕事だろう?」
「豪が手伝ってくれるんだったら大丈夫。」
「俺が?!何を?」
「明日1日俺の助手!」
「・・・俺でできるのか?」
「全然OK!」
「・・なら・・いいが・・・」
やった!明日も甘え倒してやろう。
それから豪の作ったご飯を食べたら,外はもうすっかり真っ暗になっていた。
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