帰る場所
Written by keeb様
あのときは,結局会えなかった。仕事の都合で遅れて来るという豪と。
豪と蘭が「もうすぐ着く」という連絡のあった直後,俺が呼び返されてしまったのだ。
新しいブランドを起こす関係で,どうしても俺でなければならない用事だった。
それまでも,お互いの仕事が微妙にずれたり重なったりで,ずっと会えていなかった。
前に逢ったのって・・・え・・俺の誕生日?
そのあと豪は,なにやらとんでもなく特殊な任務に入ってしまい,声さえ聞けない日々だったのに。
あのとき−辰平のサプライズパーティーのとき−に会えなければ,実はまた当分会えそうになかったのだ。
俺は,ベビー服のブランド立ち上げのために外国まで飛び回らなければならなかったし,豪は豪で,特殊な任務がまだ続くらしく,連絡さえ取れなかったから。
あの時間だけ,ほんとにあの時間だけ,豪は来ることが出来た・・・らしい。
豪と出会って2年?あ,丸2年を過ぎて3年目か。
「命賭けて戦ってたんだよねぇ。」
久しぶりに仲間たちの顔を見て,ポツンと漏らした一言に,洸が
「ああ,今のノホホンとした顔を見てると嘘みたいだがな。」
と,笑いながら答えてくれた。そう言う洸も相当変わった,見た目が(笑)
「何それ?!どしたの?その髪型。天馬なんにも言わないの?」
「いや・・まあ・・。最初はいろいろ言ってたが,もうあきらめたみたいだ。」
苦笑いを浮かべている。
「天才外科医としてさあ,信用問題なんじゃない?」
「髪型と腕とは関係ない。」
きっぱりとした言葉が返っていて。
ああ,やっぱり洸だ(笑)
みんな中身は変わってなくて,もっと一緒にいたかったんだけど。
後ろ髪を引かれる思いで,俺はその場をあとにしたのだった。
「豪・・」
帰りのタクシーの中で,豪にメールを打った。一言だけ
『逢いたい』と。
タクシーが目的地に着くまでに返事は返ってこなかった。
あのパーティーに巻き込まれたら,着信音なんて聞こえないんだろうな。
でも,クライアントとの話が終わって,携帯を確認すると,豪からのメールが入っていた。
『俺も逢いたい』と。
それだけで俺はがんばれると思った。俺も単純だなあ。
それからは−
とにかく忙しかった。寝るのは移動中の乗り物の中だけ・・みたいな。
それでも俺は,ちゃんとブランドを立ち上げ,軌道に乗せた。
あとは優秀なスタッフにまかせておけば大丈夫だ。
俺のすることは・・・涼子さんとこのベイビーの成長に合わせて,洋服をデザインするだけ。
最新作はまず涼子さんにプレゼントだ。
それを知った誠に
「そんなので,よくやっていけるな。」
と半分呆れたように言われたけれど。
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