満月の夜
七海と吼太と、二人に引きずられていった格好の一鍬がいなくなって、オレと一甲が残された。
思いっきり気を使われてしまった。
明日がコワイ気もするけど、今は感謝。
一甲と二人きりで話したかったから。
でも、いったい何から話したらいいんだろう?
「少し、歩くか?」
そう言って一甲が歩き出した。
この辺りは街灯が少ないけど、今日は満月なので辺りはボウっと明るい。
そう満月。
今日、もしかしたら一甲はここにいなかったかもしれない。
半歩先を歩いていく背中をこうして見ることはできなかったかもしれない。
満月の日に一甲は死ぬ・・・そんな大事なこと、オレは一言も教えてもらってなかった。
コイツったらオレになんにも言わずに逝ってしまうつもりだった。
一緒にいてなんにも気付かなかったオレも大ボケだけど、あの様子じゃたとえ気付いていたってコイツはシラを切り通したはずだ。
そういうのって酷くないか?
オレって一甲の何?
恋人だ、って思ってたけど・・・本当はどうだったんだろう?
今朝のことだってそうだ。そりゃ勝手にカン違いして期待してたオレもバカだけど、いきなり殴られて、しかも説明が「時間がない」だけじゃなんのことかわかんねーって。
殴られたところはまだ触ると痛い。う〜ん、マジでムカついてきた。
「ん?どうした?」
一甲が振り返った。いつのまにかオレは少し遅れていたらしい。
オレも立ち止まる。一甲との距離は片手分くらい。 手を伸ばせば届くその距離がなぜかとても遠く感じた。
「鷹介?」
「・・・なんで、黙ってたんだよ」
言葉が勝手に出た。
本当は、一甲の気持ち、全然分かんないわけじゃない。けど、それでも無性にハラが立つ。
「なんで、いっつもそうなんだよ。ひとりでなんでも背負い込んでひとりで納得して・・・あの島で一鍬と戦おうとした時もそうだったじゃん。自分一人が犠牲になればいいなんて・・・そんなの自分勝手すぎる!」
一甲は少し考えるように視線を落とした。
「自分勝手、か・・・そうかもしれん・・・ただ、俺はお前達の負担になりたくなかったのだ」
「なんで負担なんだよ。そんなわけねーじゃんか」
「ほんとうにそうか?もし俺がサソリの話をしていたらお前は俺が戦うのを止めようとしたんじゃないか?俺がひとり欠けるということは轟雷神も出撃できないということだ。それでジャカンジャに勝てるか?」
「そ、それは・・・」
確かに、一甲が来なくて轟雷神が出撃できなかったときオレたちは負けた。やつらはどんどん強くなってて、もうオレたちだけじゃジャカンジャには勝てない。そんなことは分かってる。
「けど、それでもオマエを犠牲にしていいってことにはならない!」
「甘いぞ、鷹介。そんなことでは地球は守りきれない。これから先、誰が倒れようともそれを乗り越えて進んでいかなければならないのだ」
「わっかんねーよ!オマエ、言ってることが目茶苦茶だ!今、オマエが欠けたら勝てないって言ったじゃないか」
「む・・・」
一甲が言葉に詰まった。
いつもなら口で一甲に勝ったって大喜びするところだけど、今は他に言いたいことがまだある。
「もうオレたち、シュリケンジャーも入れて6人、誰が欠けても勝てないんだ。だから、勝手に死ぬな。オレに黙って死ぬな!!」
「鷹介・・・」
ヤバい・・・鼻の奥がツンとしてきた。畜生、ここで泣くわけにはいかないぜ。泣き落としなんてカッコ悪いじゃんか。
「オレ・・・オマエが倒れてからずっと考えてた。なんでオレはなんにも知らなかったんだろうって。なんで一緒にいてなんにも気がつかなかったんだろうって。一鍬は知ってたのに、オレは知らなかったなんて・・・オレは・・・オレって一甲のなんなんだろうって」
思いつくまままくし立てて、ぎゅっと唇を噛んだ。
泣くな鷹介。ここで泣いたらダメだ。
すっと一甲の手が伸びてきて、革ジャンの胸に抱き込まれた。
ひんやりした革の感触が頬に触れる。
「愛している」
「えっ?」
一甲、今、なんて言った?
オレは急いで顔を上げて一甲を見た。斜め上に照れ臭そうにそっぽを向いた横顔がある。
「一甲、今なんて言った?」
「・・・二度も言わすな」
またぐっと抱き寄せられて鼻が一甲の胸にぶつかった。どうやら顔を見られるのがイヤだったらしい。
「黙っていたことは謝る・・・すまなかった。許してくれ。だが、決してお前を軽んじていたわけではない。大事だからこそ話せなかった。それだけは分かってくれ・・・・・・愛している・・・」
そっと顔を上げさせられてキスされた。
ズルイ。こんなど真ん中の直球投げられたら手も足も出ないじゃないか。
あーあ、結局オレってばコイツには勝てないんでやんの。
惚れたほうが負けってよく言うけど、その通りだね。
でも、もういいや、今の言葉で全部チャラにしてやるから。
ああ、オレってば健気じゃん!
ふと、一甲が唇を離してオレの顔をじっと見た。
「・・・切ったのか?」
ちぇっ、やっぱり今頃、気付いたのか。
「オマエが言ったんだろ。まったく、会うたんびに前髪を切れ切れってうるさく言ってたくせに、気付くのが遅いんだよ」
「切るとは思わなかったんでな」
「ちぇっ、切るんじゃなかった」
「いや、似合うぞ・・・」
そう言った唇がまた降りてくる。
オレは慌てて目を閉じた。
気がつけば一甲の腕の中は心地よく暖まっている。
一甲の体温、一甲の鼓動・・・ああ、生きてるんだという実感が湧いてくる。
そう、オレたちは生きている。そしてこれからも生きるんだ、一緒に。
少しだけ片目を開けると一甲の肩越しに満月が見えた。
あ、今日はもう十六夜っていうんだっけ?
とにかく、オレたちは生きている。そしてこれからも一緒に生き続けるんだ。
オレたちは死なない。
絶対に生きて、この星を守ってみせる。
THE END
出ました、ウチの兄者の必殺技・直球(笑)