三度、角を曲がって人気のない路地に入ってから一甲は鷹介を地面に下ろした。
「へ、へへ・・・い、一甲、あの、なんでここに・・・?」
憮然と見下ろす一甲に鷹介は引きつった笑いを浮かべた。
「それは俺の台詞だ」
「え、いや、あの・・・ちょっと・・・買い物」
「こんな時間にこんな場所でか?」
「いや、その・・・」
「あの男はなんだ?」
「え?・・・あ!あれ、道を教えてくれるっていうからついていったら・・・」
ちらりと上目遣いに一甲を見る。
「・・・襲われた」
「なに?!」
「あ!で、でも未遂だからな!なんにもさせてないからな!」
ぎり、と一甲は奥歯を噛みしめた。
「生かしておくのではなかったな」
「げっ」
「当たり前だ。お前に手を出すなど言語道断・・・とはいえ、今回のはお前にも非があるな」
じろりと睨むと、自覚はあるのかきまり悪そうに下を向く。
「見ず知らずの、しかも見るからに胡散臭い相手にホイホイついて行くなど、忍びとして以前に自覚が足りないとしか思えん」
「大丈夫だって!あんな奴の一人や二人、逃げられないオレじゃないって。今だって逃げられたじゃん」
「お前の“大丈夫”は一番危ない。泣きをみてからでは遅いのだぞ・・・それで、一体どこへ行こうとしていたのだ?」
ひょいと一甲は鷹介の手の中で握りつぶされている紙片を取り上げた。
「あ、おい!返せよ!見んな!」
取り返そうとする鷹介を高さであしらい、一甲はメモに目を通した。
「アダルトグッズ専門店・・・エデン?」
一甲は形のよい眉を寄せる。メモには他に住所と電話番号が書かれていた。
「わっ、バカ、声に出すな!」
真っ赤になって鷹介が喚く。
「鷹介・・・」
一甲は額に手を当てた。
「そんなに不満だったのか」
少なからずショックだった。一甲にとって鷹介とのセックスは至福のものであっただけに衝撃は大きい。まさか鷹介がこういったものに頼らなくてはならないほど不満を持っていたとは。
「ち、違うって!」
暗澹たる表情の一甲を鷹介が揺さぶった。
「一甲、誤解だって!」
「しかし、お前・・・」
「だからこれはオレじゃなくてお前が・・・」
鷹介が口ごもる。
「俺が?」
「あ、いや、その・・・」
言葉を濁して逃げる視線を捕らえて覗き込むと、渋々といった風に鷹介が口を開いた。
「だって・・・つきあって一年も経つと、その・・・マンネリ化して飽きられるって・・・」
「誰がそんなことを」
「あのネットで・・・」
「?」
「今日、暇だったからネットカフェ行って・・・前から気になってたんだ。だって心配じゃん。オレ・・・テ、テクとかそんなのないし。だいたい、してもらってるほうが多いし・・・考えたら毎日あんまり代わり映えしないセックスしてるよなとか思って・・・」
「それで、これか?」
コクコクと頷く鷹介。
なぜ先に自分に相談しないのだとか、今でも十分過ぎるくらい満足しているとかいろいろ言うべきことはあったが、ふと一甲の胸に悪戯心が頭をもたげた。
「・・・ふむ、いいかもしれんな」
「えっ?」
「少々の刺激は十二分に日々の潤いとなる」
「ええっ?」
「物は試しだ、行ってみるぞ」
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