Chance!?

<1>side一甲

夕闇に沈み込む寸前の繁華街。
昼の街から夜の街へと変貌して行くその狭間の時間。
「!」
家路を急ぐ一甲は、ある人物の姿を目に留めた。
目深にかぶった帽子とサングラスで顔を隠しているが、それはどうみても鷹介だった。
ぶかぶかの上着と今にもずり落ちそうなルーズパンツは、この街を行く若者としては標準的な服装だろう。
(しかし・・・)
一甲はため息をついた。
明らかに挙動不審なのだ。
忍びとして訓練を受けたものとはとても思いがたい。
今すぐここへ呼びつけて懇々と説教をしたいところだったが、とりあえず一甲は後をつけ始めた。
当の鷹介は一甲がつけているのにも気づかない様子で、キョロキョロと辺りを見回している。時折、手にした紙に目をやるところからすると、何かを探しているらしい。
(今日は確か休みだと言っていたな)
お互い休みの合わないことはしょっちゅうで、その日に何をしているかあえて聞いた事はない。しかも今日は遅くなる予定だと一甲は伝えていた。たまたま工程の区切りの関係で早く上がれたわけだが、そのことを鷹介は知る由もない。
洋服の買い物だとか映画だとかそういう一甲の苦手なことを一人でしているのは知っていたが、それにしては様子がおかしい。しかも今、鷹介が入って行く通りは見るからに怪しげな裏通りだ。
健康的とは言いがたいネオンの下にたむろする者たちの視線が吸い寄せられるように鷹介に集まる。
飛んで火に入る夏の虫。
狼の群れに放り込まれた小羊。
そんな愉快ではない例えが一甲の脳裏を横切った。
(気配を断てばよいものを・・・)
一甲は再びため息をつく。平和ボケしている、とは思いたくないが今の鷹介は完全に忍者失格だった。
それほどまでに鷹介の関心を引いているものは何なのか。
(まさか・・・)
一瞬、浮かんだ恐ろしい疑惑に足を止める。
通りはは右も左もいかがわしい店ばかり。
健康な成人男子である鷹介がそういったものに手を出しても不思議ではないが・・・。
(いや、鷹介に限ってそんなはずは!)
そう自分に言い聞かせた瞬間、見知らぬ男が鷹介に声を掛けたのが目に入った。
しかも、二言三言、言葉を交わし、鷹介はその男と並んで歩き始めたではないか。
体中の血が沸騰した。
押さえようのない感情が沸き上がってくる。
あやうく雷撃を落としそうになる己を必死でなだめた一甲が顔を上げた時。
「しまった!」
そこに鷹介と男の姿はなかった。
慌てて一甲は先程まで鷹介がいた場所に駆け寄る。
(どこだ?)
忍びとしての五感を全て解放し鷹介の気配を探る。右も左も似たようなビルが並んでいる。あの知能の低そうな男が忍者である可能性は低い。とすればそれらのビルのどれかに二人が消えたと考えるのが正解だ。
その時。
ガッターン!
「ばっきゃろーっ!!」
気配どころか、派手な物音と絶叫が響き渡って鷹介の存在を知らせてきた。
続いて右の建物から飛び出してくる人影を、一甲は考えるより先に捕まえた。
「うわっ!何?え?一甲!!」
案の定、それは鷹介で、突然の一甲の出現に目を白黒させている。
「この野郎っ!」
遅れて飛び出してきたのは、先程の男。
一甲の腕にいる鷹介を見て目を釣り上げ・・・ようとしてその場に硬直した。
気の弱い人間ならショック死しかねない殺気が一甲から吹きつけたのだ。
本能的な恐怖に立ちすくむ男に背を向けて、一甲は鷹介を抱えて走り出した。
跳んでもよかったのだが、周囲の目が多すぎたのだ。

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