Can You Take the HEAT ?

再び伝通院洸は悩んでいた。

悩みの種はやはり弓道天馬である。
先日、いささか、いや、いささかどころかまったくあり得ない展開であったのだが、とにかく彼は天馬に告白し、天馬はそれを受け入れた・・・と思う。
勢いも手伝ったとはいえキスまでしたのだから。
キスくらいで、ということはさておき、問題はこれからである。
あの時、「俺としたいのか?」そう天馬に訊かれ、確かにそうだと思った。
そのとき感じた欲望は今も体の奥にある。
やり方についても多少ではあるが知識はある。
だが、実際にどうなるかは未知数だ。
(それ以前の問題だな・・・)
机の上に置いた携帯電話を見つめて伝通院は軽くため息をついた。
実はあれ以来、天馬に会っていない。
ここ数日というもの仕事は半端でなく忙しく、ウオフ・マナフもおとなしい。
天馬は毎日消毒に通ってきているらしいが、なぜか自分の外来担当時間とは合わないらしい。
ここまで合わないとなると避けられているのではないかと疑ってみたくもなるほどだが、天馬がそういう芸当ができるタイプでないのはグランセイザー全員の共通認識と言ってもいい。
わずかな時間でも電話なりメールなりで連絡をすればいいとはわかっているのだが、伝通院はそういうことがとことん苦手なタイプの人間で、結局はなにを話そうかと思案しているうちに日常業務に押し流されてしまうのだった。
これは非常にまずい。
これではいつもと同じパターンである。
「洸は私より仕事が好きなのね」
これまで付き合った女性たちは、言い方は違えど、皆こんな言葉を残して去って行った。
それは当たっているだけに反論の余地も無く、また、こんなことを言うのは大変失礼ではあるが、その言葉は正しかった。今になって思えばその程度の恋愛だったのだ。
だが、天馬は違う。
このまま自然消滅などという事態は絶対に避けたい。
とにかく今日は絶対に連絡しようと心に決め、彼は携帯を取った。
その時。
不意に手の中の機械が震えた。
慌てて小さな液晶を見れば発信者は「天馬」。
偶然の一致に、伝通院の心拍が跳ね上がった。
通話ボタンを押す指が震える。
「天馬、どうした?なにかあったのか?」
「別に。なにもなきゃ、電話しちゃいけないのかよ」
天馬の声が少し怒っているように聞こえて、伝通院は焦った。
「え?あ?いや、そ、そんなことはない!その・・・電話してくれて嬉しい」
ぷ、と天馬が吹き出した音。
「天馬?」
「洸、お前さあ、よくそんなセリフが出てくるよな」
「?なにかおかしなことを言ったか?」
伝通院の返答に天馬は声を立てて笑った。
なにがおかしいのかやはり伝通院にはわからない。
それでも天馬が楽しそうだからいいか、と恋する男は思ってしまう。
「傷の具合はどうだ?」
ひとしきり笑い終わった天馬に尋ねる。他に話題はないのかと少しだけ自己嫌悪した。
「あ?ああ・・・もうなんともねーよ。ちゃんと毎日通ってんだぜ」
「聞いている。俺が診れなくてすまない」
「仕事じゃしゃーねえよ。その、忙しいんだろ?」
「まあ、な・・・」
「そっか・・・」
ふと会話が途切れる。ほんの数秒のそれがとてつもなく長く感じられて再び伝通院は焦る。
何か言わなくては、と気が急く。
宙をさまよったその視線が、壁の勤務表で止まった。
(そうか、明日は・・・)
「洸?」
沈黙を破って天馬が呼びかけてきた。
「あ、明日・・・」
勤務表から目を離さず伝通院は言った。
「明日?」
「明日は夕方来てくれないか?できればギリギリがいい」
心拍数急増。おそらく血圧も上がっているはずだ。
「なんで?」
見つめられているわけでもないのに頬が紅潮する。電話でよかったと伝通院は思った。
「その・・・明日は夕方の外来でシフトが明けるんだ。だから、その、食事でもどうかと思ってな」
「二人で?」
「当然だ」
「そっか、そうだよな。オッケ、乗った」
そう言って、また天馬は笑う。
「なにがおかしい?」
「いや、これってデートのお誘いだよな、って思ったらなんか笑えてさ」
デート、という単語にまた伝通院の心臓が跳ねる。
(こいつと付き合うのは心臓に悪い)
そんな伝通院の思いを知る由もなく、天馬はまだ笑っている。
その余裕に少しばかり意地の悪い考えが伝通院の頭をよぎった。
「天馬、明日は帰さないからそのつもりで来い」
「え?」
天馬の笑いが止まる。
「え〜〜〜っ!」
続いて響いてきた絶叫を伝通院は電話を遠ざけてしのいだ。
「あ、洸・・・?」
困ったような天馬の声にしてやったり、と伝通院は聞こえないように笑った。
「冗談だ」
そう言ってやれば、安堵のため息が聞こえる。
「洸〜、おまえやっぱりヤな奴」
「そうか?ならデートは中止か?」
「あ?あーっと、それはダメ!ったく、しっかり奢らせてやるから覚悟しとけよ!」
プツと通話が切れる。
無音になった電話を握りしめ、伝通院はやれやれとためいきをついた。
だが、あれが半分は本気だったと、天馬は気づいただろうか・・・?

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