Buon appetito♪

「え〜っ、鷹介がご飯作ってるの!」
素っ頓狂な七海の声が夕暮れのオープンテラスに響き渡った。
「七海、声が大きい。仮にもお前はアイドルなんだから」
しーっと吼太が口に指を当てる。
「仮だけよけいよ」
演ドルからアイドルに転向したとはいえ、まだ売れっ子にはほど遠い七海である。
「だいだいオレが作るのがそんなに変かよ」
鷹介が口をとがらせた。
「そりゃ、一甲が作ったほうが美味いけど、作ってもらってばっかリってのはダメだと思うし」
拗ねた口調ではあるが多分にのろけが入っている。
「心がけは立派ね。で、何作ったの?」
「え〜と、ハンバーグは好評だったぜ。オレ風に鷹の爪を入れたんだ」
「待って、ハンバーグに鷹の爪?」
鷹介の発言を七海が遮った。眉間に深い縦皺が寄っている。隣に座る吼太の眉間も同様である。
「おまえ、それ、一甲に食べさせたのか?」
「ああ、喜んで喰ってくれたぜ」
「七海・・・」
「吼太・・・」
二人は顔を見合わせて深いため息をついた。

そして、少し離れて三人の会話を聞いていた二人組は・・・
「兄者」
一鍬が隣に立つ兄に呼びかけた。
「俺の時と随分対応が違うようだが?」
静かだがその声には紛れもなくトゲがある。
その弟にちらりと一瞥をくれて一甲は三人に歩み寄った。

「待たせたな」
「あ、一甲♪」
弾かれたように鷹介が振り返る。その目がハート形になっているのを七海と吼太は見た。仮想尻尾がパタパタしているのも見える気がする。
二人は再び深〜いため息をついた。この二人の食卓事情に口を出すのは出すだけ無駄な気がする。
「お前達の心情に共感するぞ」
そう言って一鍬は吼太と七海の背後に立った。
すかさず吼太がイスごと左に動き、隣のテーブルから新たな椅子を引き寄せて自分と七海の間に一鍬を座らせた。一甲は既に鷹介の隣に座っている。
「兄者は鷹介に甘い」
唸るように一鍬が言った。
「そんなことはない」
悠然と一甲は反論した。
「唐辛子入りのハンバーグを無理して喰うのが甘くないとでも?」
「無理はしていない」
「兄者」
立ちこめる暗雲。空気が帯電しているのは気のせいか。
新たなイケメンの登場に色めき立っていた数少ない客と店員は累が及ぶのを恐れるように目を逸らした。
「落ち着け、二人とも・・・」
唯一の常識人・吼太が小さくそう言ったが、それが通じるとはハナから思ってはいない。
「俺は悲しいぞ。深紅の稲妻と呼ばれ、忍びの技にも料理にも超一流であれと言っていた兄者はどこへ行ったのだ」
「今でも俺は変わらぬと思うが」
「いや、変わった。変わらぬというのなら鷹介にも俺と同じ修練を課すはずだ」
「いや、鷹介は基礎は出来ている。応用が少し独創的なだけだ」
「独創的、ねえ。だめよ、ごまかしちゃ」
剣呑な言い合いに七海が割って入った。
「一甲、あなたがそうやって無理し続けるかぎり、鷹介は一生気がつかないわ・・・あら?鷹介」
七海の言葉に全員が鷹介に注目する。そういえば話題の中心でありながら彼は一言も発していない。
だん、と机を叩いて鷹介が立ち上がった。
「一甲、お前・・・無理してたのか?」
見捨てられた子犬のような目。
一甲のみならず、追及の先鋒だった一鍬・七海と吼太までもが言葉に詰まった。
「そんなことは・・・」
「いいよ、もう無理しなくて!ごめん、オレ帰る!」
一甲のフォローを遮って、言うが早いか鷹介は風の早さでその場から消えた。
(この場合、とりあえず黒子ロボ、だよな・・・)
今の事象に関して責任を押し付けあう三人を尻目に、常識人・吼太はため息をひとつつくとこっそり携帯を取り出したのだった。

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