食卓にようやく料理が並んだのは日付が変わる少し前。
メニューは大騒動の末に完成した「肉ジャガ/霞家風」とあらかじめ一甲と吼太が作っておいたみそ汁と握り飯。あれだけの時間と騒ぎを費やして出来たものが一品だけと言うのも凄いが、この場合それを見越して他の二品を用意していた「兄」たちの洞察力を褒めるべきだろう。
「やっと、喰える〜〜!いっただきま〜す!」
鷹介の歓喜の声を最後に男たちは無言でテーブルの上の料理を片づけた。
まだ全員20代前半の食べ盛り。お腹の虫はとっくに限界を超えている。
卓上の料理があらかた消えたころ、
「たっだいま〜♪」
足取りも軽く七海が帰ってきた。
「あれ?なに?今、ご飯なの?」
「おかえり、七海」
真っ先に返事をしたのは吼太。
「おかえり!そ、その仕事はどうだった?」
あきらかに浮き足立ったのは一鍬。
一甲は視線だけで返事をし、鷹介は・・・
「お、おかえ・・・ぐっごほごほごほっ・・・」
いきなりむせた。あわてて一甲が背中をさすってやる。
「鷹介、大丈夫?ただいま、吼太。あたしにもお皿くれる?一鍬、隣座っていい?あ、仕事?仕事はね、とっても楽しかったよ〜」
賑やかに食卓に着く七海に一鍬は席を譲り、吼太は箸と皿を差し出す。鷹介は一甲に介抱されながらまだむせている。
「ありがと、吼太。ご飯食べてきたんだけど、この肉ジャガおいしそうなんだもん・・・ん〜おいしい〜〜〜♪」
「そ、そりゃ・・・ごほっ・・・オレがつくった・・・ごほごほ・・・んだからな!」
「え〜っ?鷹介が〜?うそ〜」
「実は・・・」
苦笑交じりに吼太が事の顛末を説明する。
「鷹介が賞味期限の切れただしの素を入れようとしたのが始まりでね」
そう言った瞬間、七海の顔色が変わった。
「えーっ?!あのほん●し、賞味期限切れてたの?」
やだー、と笑いだす七海。
しーん、と男たちの間に沈黙が落ちる。鷹介すらむせるのを忘れていた。
「な、七海・・・お前もアレを使っていたのか・・・?」
おそるおそる一鍬が訊いた。
「うん。昨日も使ったよ」
「そ、そんな・・・」
「まあ、いいよね?調味料なんてカビが生えてなきゃ大丈夫だし」
「七海〜そんなことじゃ霞家には嫁に行けないんだぞ。なー、一鍬」
ショックのあまり茫然自失に陥っている一鍬に、ここぞとばかり鷹介が反撃を開始する。
「なによ、それ。誰がそんなこと決めたのよ」
「一鍬に決まってんだろ!なあ、一鍬。一鍬がそう言うからオレは今日、特訓されてたんだぜ。だから晩飯もこんな時間だし・・・ああ、オレってケナゲだよな〜、なあ、一甲♪」
勝ち誇ったように言う鷹介と冷や汗だらだらで固まっている一鍬。
「い〜っしゅう」
七海に睨まれて一鍬は長身の体を縮めた。
「ほんっとうに、そう思ってるの?だって一鍬、昨日、あたしの料理を美味しいって食べてたじゃない。ホントはだしの味なんてわからないんじゃないの」
「し、しかし、だしは料理の基本だ。合成のものを使うなんて・・・」
「そんなこというんだったら一鍬にはもうご飯作ってあげない!」
ぷい、と七海は席を立った。
「え、あ、おい、待ってくれ七海!」
慌てて一鍬が追いかける。数時間前、鷹介に偉そうに言い放ったときとはえらい違いである。もうこの二人の力関係は一生このままだな、と誰もが思った。
七海と一鍬が飛び出していった扉がゆっくりと戻って閉まるのを見て吼太と一甲はため息をついた。鷹介は勝ち誇ったようにガッツポーズだ。
やれやれ、と吼太が立ち上がった。
「んじゃ、俺もう寝るわ。食器は朝食の時に片づけるから置いといて。お休み、鷹介、一甲」
「ああ、世話をかけたな、吼太。片づけは俺がしておく」
「ん〜、じゃあ、頼んじゃおうかな。俺、早番だし」
「承知した」
頷いた一甲にもう一度お休みを言ってから吼太は食堂を出ていった。
「さて、我々も片づけて寝るぞ・・・どうした?鷹介」
「一言、言っていい?」
「なんだ?」
「オレの苦労はなんだったんだー!!」

この後、「霞家の嫁」という単語が禁句になったのは言うまでもない。

おしまい



すみません!七海が修業していません!お題を頂いたときの一鍬と鷹介の言い合いがツボだったので
そのまま書いてしまいました。おさとう様、こんなのじゃダメでしょうか・・・?

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