The WORD

 

「愛している」
月明かりの下、今にも泣き出しそうな鷹介を抱きしめてそう告げた。
狡いのは、虫がいいのは百も承知だ。
それでも言わねばならない言葉だったから。
本来ならあの日、鷹介に「本気」を告げられたあの時に言うべき言葉だったのだ。
それなのに言えなかった。告げるだけの勇気がなかった。
死にゆく身で告げることは鷹介の心を呪縛することになると、そう言い訳しながら、その実、言えなかったのは自分が未練だったからだ。
心を繋いでしまえば目前に迫った死を受け入れられなくなるような気がしたからだ。
深紅の稲妻と呼ばれたプライドが死の影に怯えて取り乱す自分を許せなかったからだ。
そんなくだらぬもののために鷹介を深く傷つけ、あまつさえ永遠に失ってしまうところだった。
だからこれが最後のチャンスだ。
この一言を伝えるために自分は生きて残ったのだと、一甲は確信していた。

「奇跡、と言うべきであろうな・・・」
腕の中の茶色い頭を見やりながら一甲はそう呟いた。
さっきまで辺り憚ることなく嬌声をあげ、全身で一甲を受け止めていた恋人は、ぴくりともせず死んだように眠っている。
いや、その表現は適切ではない。こんなにも暖かで安らかな寝息を立てているのだから。
無機質な警報音と絶望的な思いで抱きしめた身体の冷たさがフラッシュバックする。
それはたとえようもない恐怖の記憶として一生一甲の中に残るだろう。
だが、もう二度とあのような思いはごめんだった。
そのためには、生きねばならない。
生きて共に戦わなければならない。
できるか、ではない。やるしかないのだ。
この男と共にあるためには不可能を可能に変えねばならないのだ。
この星を守り、鷹介を守り、己自身も守る・・・それが一甲の誓い。
「厳しいな・・・」
ふっと一甲の頬を苦笑がかすめる。だが、それは決して暗いものではなかった。むしろ楽しそうにみえなくもない。
「ん・・・」
微かに鷹介の瞼が震えた。
ゆっくりと伏せられていたまつげが持ち上がる。
「一、甲・・・」
小さな、しかし甘い囁き。
「どうした?」
一甲が顔を寄せればくすぐったそうに目を細めた。
「好きだぜ・・・」
歌うような唇からどきりとするほど艶やかな微笑みがひろがる。
瞳の奥の悪戯な輝きに、一甲の心拍が跳ね上がった。
が、その輝きはすぐまた降りてきた瞼に隠されてしまう。
少しだけ開いた唇からは規則正しい寝息が漏れ始めた。
「寝惚けたか・・・」
少々残念そうなため息を一つついて、一甲もまた目を閉じた。
今しばらくはこうして平穏な時を過ごしても罰はあたるまい・・・。
「愛している・・・」
何度目かもう分からないその言葉をもう一度紡いで、一甲は眠りについた。


komachi様、短くてすみません!ウチの一甲の言うセリフといったら
これしか思いつかなくて・・・消化不良です。

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