〜〜忍び恋〜〜
結局・・・一甲は何も言わない。
予告なしにふらっとオレの部屋に来て、夜明け前に帰っていく・・・そんなことが何回か繰り返されて、少しずつ二人で話をすることが増えたけど、やっぱり肝心なことはなにも話していない。
訊きたいことはたくさんあるけど、いざとなると訊けなくて。
結局他愛もない話をして・・・身体を重ねてるだけ。
体のこと、一緒にいて具合が悪そうなところは見かけないけど、本当のところはどうなんだろう?
それから・・・本当はこれが一番訊きたい・・・オレのことどう思ってるのか・・・。
キスしたからって、セックスしたからって好きだとは限らない。
だから訊けない。
訊いてしまったら、二度と一甲がこの部屋に来なくなるような気がして。
それが一番、怖い。
ジャカンジャの出ない昼下がりのおぼろ研究所。
おぼろさんはニューカラクリボールの開発に余念がない。
七海は歌の練習中。まだ一曲しかない持ち歌を繰り返し歌っている。
吼太は介護の仕事で外出中。
夜行性の館長はお昼寝中だ。
オレはソファに座ってボンヤリと七海の歌を聴いていた。
七海の歌は演歌。演歌ってのはだいたいが悲恋ものと相場が決まってる。この歌だってそうだ。人目を忍んで恋し続けるっていう、そういう歌詞。最初聞いたときはずいぶん後ろ向きで辛気臭いと思ってたけど・・・今はちょっと分かる。
逢いたいのに逢えない、相手が今何処でどうしているのかわからない、気持ちだけがあふれて止まらない・・・そんな気持ちをオレも抱えているから・・・
「・・・辛いよな」
「なあによ?なにか文句あるわけ?」
ふと零してしまった言葉に、くるりと七海が振り返った。
「どうせ売れてないわよお」
売れない演歌歌手であることは七海のコンプレックスだ。オレの言った言葉がそれを指しているとカン違いしたらしい。
「あ、いや、違うって。七海のことじゃなくて、歌のほう・・・」
「歌?」
「ん。すごく逢いたいのに逢えないなんて辛いなと思って」
慌てて弁解すると、七海はものすごくヘンな顔をした。あ、ヘンって言うと怒るだろうからこれはオフレコだ。
「・・・鷹介?あんた変よ?なんか悪いものでも食べたんじゃない?」
「なんだよ、それ」
「だあってぇ・・・鷹介、この前まで辛気臭いって言ってたくせに〜。オレなら何が何でも会いに行くっていってたの誰よ?」
う、確かに言ったケド。
「う、うっせーな!あん時はあん時。今は今」
「ふ〜ん・・・今、ねえ・・・」
ニヤリと七海が笑った。マズイ!
「鷹介、そんな経験でもあるわけ?」
やっぱり!まさか、感づかれた?
「ね・・・ねえよ!ないったらない!」
「あ〜アヤシイわね、その態度〜〜。ねえ、おぼろさん」
七海は同意を求めるようにおぼろさんの方を向く。
「ん?なんや?」
ラッキー。コンピューターに意識が行っちゃってるおぼろさんはこっちのことに気がついてない
「オ、オレちょっとその辺走ってくるわ!」
それ以上七海に突っ込まれる前にオレは研究所を飛びだした。
飛び出しては来たものの、行く当てがあるわけでもなく、オレは公園のベンチに寝転がっていた。
部屋に帰って寝ればいいのだが、今は一甲の気配が残るあの部屋に帰りたくなかった。
忍び恋。
オレの恋はまさにそれ。
好きで好きでたまらなくて、でも誰にも言えなくて。
逢いたくてたまらないのに、どこにいるのかわからない。
こうなりゃいっそジャカンジャでも出てくれれば、とまで思う。そうすればどこにいたってアイツは駆けつけてくるはずだから・・・。
一甲、オレ、やっぱりおかしいよ。
ハリケンジャーなのにさ。ジャカンジャが暴れることを期待してるなんて。
でも逢いたい。
逢いたいよ、一甲。
おまえ、今、どこにいる・・・?
「鷹介」
一甲の声、好きだなあ。初めて名前で呼んでくれた時、すっげえ嬉しかった。
あの時はまだ一甲のことがこんなに好きだなんて気がついてなかったけど。
「鷹介」
また呼ばれた。
今度は少しあきれたような声。
・・・あれ?
「起きろ!」
「痛っ!」
オデコを押さえて飛び起きた。
目の前に見慣れた革ジャケット。
「一甲!」
「まったく、たるんでいるにもほどがあるぞ」
驚きで二の句が継げないオレに一甲は憮然と言い放った。
一甲が目の前にいる。
逢いたくてたまらなかった一甲が。
「一甲・・・」
「なんだ」
やっぱり本物だ。
「・・・なんで、ここに?」
「仕事帰りに通りかかったら、こんなところで無防備に寝ている忍者が目に付いた」
うっ、忍者ってとこだけ強調しやがったな。
「俺がジャカンジャだったらどうなっていたと思うんだ」
・・・はい、ごもっともです。
こんなところで寝こけるなんて、ましてや一甲がそばに来ても気づかなかったなんて忍者失格だ。
それでも逢えて嬉しい。お前に逢えるんだったらいつでもここで寝てるぞオレは。
けどさ、そんなこと言ったら、お前、困るよな?呆れるよな?
だから言わない。
「・・・なにもデコピンすることはねえだろ」
代わりにわざとらしくオデコを押さえてそう言った。
「それで済んでありがたいと思え」
怒ったような声で一甲が答える。けど口元が少しだけ笑ってる。
よかった。オレは「いつもの鷹介」でいられてるみたいだ。
「けど、もうちょっと優しく起こしてくれてもよくねえ?」
「甘えるな」
「痛っ!」
デコピンもう一発。
「畜生、やったな!」
お返しに振り回したオレの拳を一甲が難なくよける。
ムキになってオレはさらに一甲を追いかけた。
夕暮れの誰もいない公園で男二人でなにしてるんだか、って光景。
だけどこれでいい。
こうしている間は何も考えずに一甲といられるからさ。
ぱん、と小気味よい音を立てて、何度目かに振り上げた拳が一甲の右手に受け止められた。
そのままぐいっと引き寄せられて、倒れ込んだ先は一甲の腕の中。
見上げた視線と見下ろす視線が絡み合う。
ゆっくりと唇が降りてきて、オレは目を閉じた。
触れるか触れないかの軽いキス。
その時。
『兄者』
一鍬の声。
慌ててオレたちは身体を離した。
チェンジャーからだってすぐ分かったけど、心臓はバクバクいってる。
『兄者?』
不審げな一鍬の声。
一甲はちらっとオレを見てから左手を口元に上げた。
「すぐに行く」
すうっと鳩尾のあたりが冷たくなる。
分かってた返事なのに。
オレ・・・もしかして・・・
「鷹介」
一甲がオレを呼んだ。慌ててオレは明後日の方向を向く。
だって、たぶん、今、オレはすごく情けない顔をしてると思うから。
ホントに情けない。
バカみたい。
一鍬に嫉妬してる。
一甲と一鍬は兄弟で、ずっと二人で助け合って生きてこなきゃいけなくて、それから、ゴウライジャーはふたりで一組で・・・そんなこんなは全部分かってるのに。
ここで一甲を引き止めるなんてできないって分かってるのに。
引き止めたら一甲が困るってわかってるのに。
オレはぎゅっと拳を握った。小さく深呼吸。
よし、大丈夫。気づくなよ、一甲。
「じゃあな、一甲。オレ帰るわ。起こしてくれてサンキュー」
なんでもないようにそう言って、後ろを向いた。
「鷹介!」
呼び止められたけど、振り向かずに走り出した。
一甲の気配が遠ざかる。
それが完全に消えてしまうまでオレは走り続けた。
オレたちの関係はいったい何なんだろう?
答えはまだ出ない。
終
ありがちです。すみません(笑)リクが消化不良だったのでセットでkomachi様に捧げます。もらってください!別館TOPへ 本館へもどる