上着を着ろという一甲を振り切ってオレは先にたって歩いた。
だってせっかく夜風が気持ちいいのにさ。
灯の消えた商店街の静寂を壊さないようにしながら、でも、ウキウキとオレは歩く。
「風邪を引くぞ」
一甲の小言が風に乗って届く。普通の人の耳には風の音と区別が出来ないだろうけど。
「オレは引かないもんね」
同じやり方でオレも答える。
「馬鹿は風邪を引かんということか」
あ、ムカっ。
「だあれが馬鹿だって?」
振り返って一歩戻る。
バサリと上着を着せられてハメられたことに気づいた。
「狡い」
「お仕置きされないだけ有り難いと思え」
「お仕置きって・・・んっ」
信じられねー!
いくら人気がないからって、普通、往来の真ん中でキスするかよ!
「行くぞ」
なにが「行くぞ」だよ。誰のせいで止まってたと思ってんだ。
「?」
一甲が出しかけた足を止めた。
「へへ〜ん」
腹が立つから手を繋いでやったんだ。
前からちょっとだけやってみたかったんだったりして。
でもやっぱり気が引けるし、恥ずかしいし・・・ま、酔った勢いってことで。
素面の一甲は恥ずかしいだろうけど・・・と思いきや、コイツ、一瞬止まっただけで何事もなかったようにオレの手を握ったまま歩き出しやがった。
なんだよ、なんだよー、これじゃオレだけ恥ずかしいんじゃん
この1年で随分社会勉強をしたとか言ってたくせに。
でも・・・ま、いいか。こんな機会滅多にあるもんじゃないし。
繋いでる手の平から一甲のぬくもりが伝わってきて、けっこうドキドキするし。
それに・・・案外、大丈夫なのかもな。オレたちが手を繋いでたって誰も気にしないのかも。
今、公園の入り口ですれ違ったおっさんだって、そのまま行っちまったし。
「見事だな」
繋いだ手はそのままで一甲が足を止めた。
オレも立ち止まってその木を見る。
小さな公園の隅に植えられた桜の木。
いわゆる「桜の名所」みたいにたくさんじゃない。
たった一本、それも他の季節はその存在すら忘れてしまうほどひっそりと生えている木だ。
なのに今、凛と伸ばした枝の先までこぼれそうなほどの花を咲かせている姿は思わず息を飲んでしまうほど綺麗だった。
桜の下のベンチに並んで腰を降ろす。
積もった花びらを踏むのはちょっと気が引けたけど。
「・・・去年もこの桜を見たな」
「覚えてたんだ」
引っ越ししてきた次の日かその次の日。あのときはまだ宵の口で人がたくさんいたし、オレたちは公園には入らず、入り口から眺めただけだったけど。
「忘れるはずなかろう。お前との大切な記憶だ」
う、うわ〜うわ〜またそういうセリフを平然と!
「1年か・・・改めて自分の幸福を感じるな」
握ったままのオレの手を弄びながら一甲が笑う。
ああ、ダメ。オレこの顔に弱い。
さっきから続いてるドキドキがさらに大きくなって、顔から火が出そう。
「オ、オレだって・・・でもさ、その・・・別に計画してたってわけでもなくて・・・さっきまで意識してなかったつーか、ホントさっき、帰り道でいっぱい桜を見てたら、急にこう・・・どうしてもお前と今年の桜を見ておきたくなって・・・けど、ここって決めてたわけじゃないし・・・なんだろ、ん〜、そう・・・季節が一回りしてもお前が一緒にいるって事が嬉しかったんだ」
言ってて恥ずかしくなって、オレは天を仰いだ。
その顔に一甲の顔が被さってきて。
さっきより数段濃厚なキス。
あー、もーいいや、って気分になった。
運悪く目撃しちゃった人がいたら御愁傷様ってことで。
だって、もう恥ずかしいの通り越しちゃって、ただ目茶苦茶に幸せなだけだから。
「鷹介・・・?」
ふわりと一甲の唇が離れた。
「ん〜?」
間延びした返事をオレは返す。
「おい、寝るな」
なに言ってんだよ。オレは寝てなんかないぞ。
「こら、鷹介」
だから寝てないってば。
「仕方がない・・・」
なにが仕方ないんだよ?
「んあ?」
急にぐいっと持ち上げられた感覚。
「しっかりしがみついていろ」
なんだかよく分からないけど、言われるままオレは目の前にあったものにぎゅっと腕を回した。
ん?もしかしてこれ、一甲の背中か?
ということは・・・おんぶ、されてる?
・・・え〜っと・・・ま、いいか。
ごめん、一甲、オレ、マジで酔っ払ってたみたいだ。
「鷹介」
オレの様子を確かめるように一甲が呼んだ。
けど、オレ、返事は無理みたい。
「・・・次の春もお前と桜を見たいと言ったら笑うか?」
たぶんオレが寝てると思ったんだろう。
クスリと一甲は自嘲気味に笑って歩き出した。
へへっ、ちゃーんと聞こえてるよ。
でも笑うなんてとんでもない。
オレは来年も、再来年も、もっともっとず〜っとだって思ってる。
だって、オレたちは一生一緒なんだから。
とんでもない出会いで始まったオレたちの恋は物語ならハッピーエンドだけど、オレたちにはまだ結末じゃない。
オレたちの未来は「to be continue」。
・・・だろ?


え〜っと、すっかり時期を外してしまった季節ネタ。
これを大変遅くなりましたが7777HITの霜月みちる様に捧げます!

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