約束

すっかり通い慣れてしまった部屋の窓を見上げ、霞一甲は少し逡巡した。

窓に明かりはない。

まだ帰っていないのか、それとももう眠ってしまったか。

まあ、いなければいないでよし。眠っているなら顔を見るだけでもいい、そう考えて歩き出す。

合鍵は、ある。なくても入れないわけではないが、嬉しそうに鍵を差し出す様子に断る理由もなくてもらっておいたものだ。

 

「一甲・・・?」

そっとドアを開けて滑り込むと、意外にも闇の中から声がした。

声のするほうを向くと、月明かりに照らされたベッドの上に鷹介が座っていた。

「起きていたのか?」

「ん、まあ・・・」

「どうしたんだ?明かりもつけないで」

「いや、別に・・・面倒だったから・・・」

「・・・そうか?」

声に力がない。とりあえず元気だけが取り柄のような鷹介にしては変だ。

「なあ、一甲」

「ん?」

「セックスしよ」

瞬間、一甲は硬直した。

鷹介の突飛な言動にもだいぶ慣れてきたつもりだったが、まだまだ修業が足りないようだ。

しかし今の発言はどう考えても突飛すぎる。

「鷹介、お前おかしいぞ」

「なんだよ、いいじゃん、恋人なんだから」

「それはそうだが・・・」

「だろ?」

抱きつかれて、キスされて。倒れ込んだ場所はおあつらえ向きにベッドの上。

このままなだれ込むにはやぶさかではなかったが、やはり変である。

(まさか・・・)

ふとよぎる最悪に不愉快な仮説。慌てて一甲は唇を離した。

じっと鷹介の顔を見つめる。

「おい、鷹介・・・まさか、お前、シュリケンジャー、ってことはないだろうな」

鷹介は一瞬、大きく目を見開き、次の瞬間吹きだした。

「ぶっははははは!なにソレ!ははははは!」

笑われた一甲はほっとしつつも憮然とする。

「笑うな。お前だって俺に化けた奴を見破れなかっただろうが」

「だ、だって、この状況で・・・はははは!ひー、腹痛え〜」

鷹介はなおも腹を抱えて転げ回る。

「一甲、一甲」

「ん?」

「天空!シノビチェンジ!な〜んて・・・いてっ」

ふざけすぎの恋人に鉄槌を下してから一甲は立ち上がった。

「帰る」

「ええっ?なんだよ、来たばっかじゃん。まだいいだろ?」

「誰のせいだ、誰の」

「オマエじゃん、変なこと言い出したの・・・・・・帰るなよ」

ぎゅっと手を握られる。

振り向くと鷹介は真剣な顔で一甲をじっと見つめていた。

一甲は再びベッドに腰を下ろし鷹介を抱き寄せた。

また少し伸び始めた前髪をかき上げて、綺麗なアーモンド型の眼をのぞき込む。

「さっき、なにを考えていた?」

「なにって・・・」

鷹介は一甲の眼を避けるように視線をそらした。

「別に、もういいよ。しょーもないことだし。笑ったら忘れた」

「なにか気になることがあるんだろう?言え。隠し事をするなと言ったのはお前だろう。

ならばお前もそうしろ。俺もあまり察しのいいほうではないのでな」

「本当にたいしたコトじゃないんだ。今考えてもしかたねーことだしさ」

一甲は黙って先を促した。

「えーっと、あのさ・・・オレたちってずっと一緒にいられるかな、って・・・考えてた」

「ずっと?」

「あ、そう、えーっと、そう、ジャカンジャのことはとりあえずおいといて・・・」

「つまり?」

「んー、あのさ、疾風と迅雷って対立流派だよな」

「?ああ、そうだ、いや、そうだったと言ったほうがいいな、今は」

「今は、か。そうなんだよ。オレさ、こないだ一鍬が鬼雷丸を持ち出したじゃん、あん時まで忘れててさ・・・だってオマエと戦うなんて考えられねーもん・・・でもさ、この戦いが終わって、おフダにされちゃったみんなが戻ってきたら?また元の疾風と迅雷になったら?館長だって今はジャカンジャを倒すって目標があるからなんにも言わないけど、みんなが戻ってきたら、どうするだろう・・・って考えてたワケ」

へへっと鷹介は笑った。

「あー、やっぱ、しょうもないよな。うん、一甲、今のは・・・」

忘れてくれ、と言いかけた鷹介を、一甲はぎゅっと抱きしめた。

「大丈夫だ」

「え?」

「大丈夫だ。どんなことになっても俺の気持ちは変わらん。誰にも俺達の邪魔はさせない。だから安心しろ」

「一甲・・・」

かああっと鷹介の頬に朱が差す。

こういう場合の一甲の発言は恋愛経験の少なさ故に常に直球勝負で的を外さない。

「まあ、まずはジャカンジャを倒すのが先決だがな」

「そ、そうだな」

「そのあとのことは・・・そのときになってみないとわからんが・・・消された連中が戻ってくるのか来ないのか・・・ただ、俺はお前を手放す気はない・・・できれば一緒に暮らしたいと思っている」

弾かれたように鷹介が顔を上げる。

「ホントかよ?」

「本気だ。この戦いが終わったら、一緒に暮らそう」

「ホントだな?ホントにほんっとうに!本気なんだな」

「くどい。俺に二言はない」

なおも「ホント?」を連発しそうな唇をキスで塞ぐ。

 

夜明けまでまだ時間はたっぷりありそうだった。

The End


勢いで書いたけど・・・いいのか兄者?

NOVELSへ              TOPへ