<4>
ゆったりと濃密な闇が流れる。
夜明けまではまだ時間があった。
腕にかかる重みと規則正しい寝息。
もう後悔は感じなかった。
所詮、自分はこの程度の男なのだと、言ってしまえばそれだけのこと。
流砂のような感情の渦に逆らえぬ無力でちっぽけな男。
「許せ、鷹介」
決して言えはしない謝罪の言葉を眠る耳元に囁いた。
言えぬ思い、言えぬ運命。全てを知ったとき鷹介はどんな顔をするだろうか。
それを見ることは一甲には叶わぬことだなのだが。
「ん・・・」
かすかに鷹介が身じろぎした。
一甲がそっと顔を離すと、ぱちりと鷹介の目が開いた。
何度かまばたきした後でいきなりぱっと飛び起き・・・そして突っ伏した。
「いてててて・・・」
甘やかな時間に似付かわしくない呻き声。だが、当人には切実な問題である。
「大丈夫か?」
慌てて一甲は身を起こして気遣う。少し無茶をしたという自覚はあった。
「大丈夫大丈夫」
突っ伏したままそう言って、続いて、にっと鷹介は笑った。
「?」
「まだハダカだな」
「??」
疑問符を浮かべる一甲をよそに鷹介が一甲の胸に指を這わす。
「こないだはオレが起きたとき服着てた」
不満そうな口調は鷹介がそれを気にしていたということのようだ。
だが一甲がそれについての謝罪を口にする前に鷹介は話題を変えた。
「やっぱ、一甲って筋肉ついてるな」
鷹介とて決して貧弱なわけではなく、忍者として戦士として相応の筋肉は身に付けている。だが、幼少より虐待に等しい鍛練を積んだ一甲とは比べ物にならない。
さっきの媚態はどこへやらで熱心に己の身体を研究する鷹介に一甲は苦笑した。
と同時に静まりかけていた炎がちらりと煽られたのに気づく。
「よせ」
少しだけ焦りを含んだ制止に鷹介が不満そうな顔をする。
「いいじゃん、ケチ」
その色気より幼さの見える表情もたまらない、などと思っているとは鷹介は夢にも思うまい。
「お前のためだ。明日、起きれなくては困るだろう」
「う・・・やべ、明日、高所作業だ」」
「大丈夫か?」
思わず腰に目をやってしまうのは仕方あるまい。
「バカにすんな、オレだって忍者だぜ」
視線の意味するところに真っ赤になりながら、鷹介が顎を反らす。
「そうだったな」
「あ、くそっ、笑ったな。見てろ、いつかお前よりマッチョになって同じ目に合わせてやるからな」
「・・・楽しみにしていよう」
二人、顔を見合わせて笑う。
いっそこのまま時間が止まれば、と思う。
だが、自分たちにはやらねばならないことがある。
そして、鷹介の言った「いつか」は、永遠に来ない・・・。終
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