何かが頬をかすめた感触でオレは目を覚ました。
そっと手足を伸ばすと体のあちこちが軋んだ。
「起きたか?」
鼓膜を震わせる低い声にはっと目を上げる。
「一甲・・・」
枕元に座っているのは一甲・・・。
途端に今し方自分たちがナニをしたのか思い出した。
かあっと顔に血が上る。
そうだ、オレは一甲と・・・。
恥ずかしさと充足感でいっぱいになりながらオレは一甲を見上げた。
だが、一甲に先程までの熱さは片鱗も感じられない。ジャケットこそ着ていないが‘いつもの’霞一甲がそこにいた。
「一甲・・・?」
恐る恐る声をかける。もしかして全部夢だったとか・・・なわけないよな。
だが一甲は無言でスッと立ち上がった。
「待てよ!」
立ち上がったあいつの手をとっさに掴んだ。
帰ってほしくない。
けど、それを口にするのはどうしてもはばかられた。
一甲は手をつかまれたまま黙ってオレを見下ろしている。
どうしよう、なにか言わないと・・・
昼間と同じ事態の再現にオレは戸惑う。
また来てくれ、なんて誘ってるみたいでやらしいよな・・・
でも、どう言えばいいんだろう。それに一甲はどんな気持ちなんだろう・・・?
「あのさ・・・オレ・・・オレ、本気だから・・・」
それだけ、搾り出した。自分の気持ちだけは伝えておきたかった。それが精一杯。叫びすぎて掠れた声は自分のじゃないみたいだし。
一甲は・・・少しだけ目を見開いてじっとオレを見た。掴んだ拳にぎゅっと力が入る。けど、その唇からはなにも言葉はなかった。
ダメ、かな・・・オレは本気でも一甲にはほんの気の迷いだったのかもしれない。
オレはそっと手を放した。
きっと一甲はこのまま向こうを向いて出て行くだろう。
その背中を見たくなくて下を向く。
・・・え?
頭のてっぺんに何かが触れた。
それがキスだと気づいたときには一甲の姿は既になかった。
その同意とも同情ともとれるキスがオレと一甲の苦しくて幸せな蜜月の始まりだった。
そしてオレはまだ一甲を襲った運命もヤツの悲壮な決意も知らなかった。
THE END