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うー、まだドブの臭いがする」
バスタオルで頭を拭きながら鷹介はこぼした。
「気のせいだろう」
同じくバスタオルを手にした一甲は答えた。
「そーかなあ」
「どれ」
鷹介の頭を引き寄せて一甲は匂いを嗅いだ。
「大丈夫だ」
「ホントか?」
「ああ、このまま喰ってしまいたいくらいだ」
頭のてっぺんに囁かれて鷹介はクスクスと笑った。
「バーカ。晩メシが先だろ」
そう言って鷹介は一甲の腕から抜け出した。

コンビニの店員に思いきり嫌な顔をされながら帰りがけに買ってきた弁当をいつもの席で向かい合って食べた。これは案外に珍しいことで、ひょっとすると二人揃って家で弁当を食べるのは初めてだったかもしれない。
鷹介は妙にはしゃいで、よく喋り、よく食べ、その影でこっそり一甲の器に自分の嫌いなものを移して怒られたりと忙しかった。
そんな夕食が終わって。
「映画、見れなかったな・・・」
からん、と箸を置いてポツリと鷹介が言った。
逸らされた視線の先を一甲も見た。窓の外は闇に包まれている。
わかっていた。
基本的に鷹介が鬱陶しいほど元気なときは、落ち込んでいるときだ。
朝の様子から相当楽しみにしていてくれたらしいイベントを自分の手で潰してしまったのが余程悔しいのだろう。
「まだ見るチャンスはあるだろう?」
一甲はそう答えた。
「けどさ・・・やっぱ、おまえと一緒に見たかったな」
長い髪に隠れた横顔に一甲はフッと微笑んだ。
「一人で行く気か?」
笑いながらそう言えば、鷹介の顔が跳ね上がる。
「ホントか?!」
「ああ。一緒に行きたいのは俺も同じだと言っただろう」
「一甲・・・」
「ただし、今度は俺が迎えに行く。事務所の前で待っているからな」
「えーっ、なんでだよ」
「また今日のようなことがあったらどうする。お前はやはりトラブルメーカーだからな」
「なんだよ、それー!」
むくれて飛びかかってくる鷹介を一甲は素早く抱き込んだ。
額に唇を落とすと途端に鷹介は大人しくなる。
そのまま瞼から鼻筋へキスを滑らせ、ぷるんとした蠱惑的な唇に触れようとしたとき。
「あ」
と鷹介が間の抜けた声を出した。
「・・・なんだ?」
本日二度目のキスの寸止めを食らった一甲は不機嫌に訊く。
「あのさ、なんでおまえ、オレの居場所がわかったんだ?」
ギクリ。
一甲は内心で冷や汗をかいた。
だがそこは霞一甲。それを顔に出すほど未熟ではない。
「わからんのか?」
さらにニヤリと笑って見せれば、鷹介は術中に嵌まったも同じ。
「うーわかんねえ」
思惑通りに眉根を寄せる鷹介を見て一甲は安堵する。
タネを明かせば簡単なことだ。
だが鷹介が激怒することは必至。
知られるわけにはいかなかった。
鷹介の身体にこっそりGPS発信機を埋め込んだなどということは。
「なあ一甲、教えろよー」
鷹介がせっつく。一甲はもう一度、唇の端で笑った。
「答えは・・・愛だ」
「愛ーーーっ?!」
「そうだ。お前を愛する気持ちが俺をお前の元へ導いたのだ」
「嘘つけ!」
ぷうっと膨れた頬に一甲はキスを落とした。
続いて可愛らしく尖った唇に優しく触れる。
「俺を信じないのか?」
ついばむようなキスを繰り返しながら囁けば、そうじゃないけど・・・と少しだけガードが甘くなる。
「愛している」
切り札の殺し文句。
鷹介が諦めに似たため息をついた。
「・・・しゃーねえ。誤魔化されてやるよ・・・シュークリーム10個で」
「承知した」

恋人たちの夜が更ける。
鷹介が事実を知るのはいつの日か。
それは誰にもわからない。


keebさ〜ん!遅くなってすみません!

そして結局いつものパターン(笑)

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